鉄道、映画、お金の関係を考える――『旅の贈りもの』制作者インタビュー(後編)杉山淳一の時事日想(1/8 ページ)

» 2012年10月26日 08時55分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

竹山昌利氏のプロフィール

1973年に三船プロダクションに入社。1978年よりフリーの製作者として独立。テレビドラマ「太陽にほえろ」「大都会」「Gメン75シリーズ」「赤い◯◯シリーズ」ほか、東映東京撮影所の劇場用映画を担当。1994年からプロデューサーとして活躍中。主な作品は『星守る犬』『僕の初恋をキミに捧ぐ』『旅の贈りもの 0:00発』『恋空』『T.R.Y.』など。


 10月27日から映画『旅の贈りもの 明日へ』が全国で公開される。3人の主人公が列車で自分探しの旅に出る。旅の舞台は福井、そしてJR西日本など福井の列車たち。このようなロケ主体の映画では地域の「フィルムコミッション」や企業の「ロケーションサービス」部門が撮影を支援する。

 フィルムコミッションとロケーションサービスの役割はどちらもほぼ同じ。前者は自治体や住民、商店街などを代表する公的団体で、ロケーションサービスは企業の一部門である。広報、宣伝活動の一環とも言える。例えばJR西日本は2004年から「ロケーションサービス」部門を発足し、映画やドラマ、コマーシャルに鉄道施設を提供している。

 地域や企業は映画やドラマにロケ地を提供することで、宣伝効果と地域活性を期待する。映画制作者はスムーズな撮影と、ロケ地の人々の観客動員を期待する。ただし、どちらか一方だけが利すれば良好な関係は保てないだろう。映画制作と地域のつながり、企業の協力について、どのような関係が望ましいのだろうか。

 →なぜ鉄道映画が注目されているのか――『旅の贈りもの』制作者インタビュー(前編)

489系と制作者の人脈で決まったロケ地

『旅の贈りもの 明日へ』に登場する489系電車

杉山:『旅の贈りもの 明日へ』は、まず489系電車(国鉄時代に製造された特急電車。特急「雷鳥」として大阪−金沢−富山間を運行していたが、最後は上野−金沢間を急行「能登」として定期運行を終え、2011年3月で引退)ありきで作られたそうですね。

竹山:そうです。監督と脚本家に「489系のシーンをたくさん出そう」と指示しました。仕上がった作品を見ると、前作より電車の出番は少ないです。ほんとはもっと多くしたかった。ラストシーンも489系に乗る場面にしたかった。でも、それだと前作『旅の贈りもの 0:00発』と同じになってしまうのでやめた。

杉山:『0:00発』は全編の半分くらいが列車の走行シーンと車中でしたね。エンディングでEF58と旧型客車が走って、中森明菜さんの『いい日旅立ち』が流れる。鉄道ファンじゃなくてもじわっと来ると思います。

竹山:前回のEF58と同様に今回も「489系電車を動かす」ところに意義がありました。それと同時に難しさもあった。実は、JR西日本の489系は北陸本線しか走れないそうなんです。

杉山:特急雷鳥のルートですね。

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