来てよその“日”を飛び越えて――今こそ、震災復興ツーリズムのススメ『あまちゃん』最終回記念(2/9 ページ)

» 2013年09月30日 12時40分 公開
[本橋ゆうこ,Business Media 誠]
誠ブログ

福島県立美術館のプライス・コレクション展へ

 ひたすら東北本線を北上し続けると、たんたんと続く住宅地がしだいにまばらになり、やがて首都圏とはハッキリと別世界になってきて山深いエリアを通過する。昼も近くになって、まず最初に降り立ったのは福島駅。

 実は今回の旅の目的の一つでもあったのが、「若冲が来てくれました」展(参照リンク)。世界的に有名な江戸期の絵師、伊藤若冲の傑作を数多く集めた米国人ジョー・プライス氏所蔵のプライス・コレクションが、東北を巡回するという企画である。この展示が仙台、盛岡と巡って来て、その最後の開催地である福島県立美術館を、すべりこみで訪れようというのだった。

「若冲が来てくれました福島展」のポスター
福島県立美術館正面

 熱狂的な若冲作品の蒐集家であるのみならず、江戸絵画全般に造詣が深く、日本人の奥様を持つプライス氏は、東日本大震災の当時、テレビで映し出され津波被害や原発事故の光景に、大変胸を痛めたという。

 そんな時、自然の猛威によって傷つけられた東北の被災地の人々に、自然の美しさ、優しさ、力強さを色彩豊かに描いた江戸絵画の傑作たちを、長年に渡って積み重ねて来た自身のコレクションを通じて鑑賞することにより、傷ついた心を是非癒して欲しい。そんな強い願いから企画されたのが、今回の巡回展示のそもそもの始まりである。同じ日本人として、この海の向こうからのプライス氏の厚意には心から感謝せざるを得ない。ありがとう、プライスさん。あと奥様と、関係者の全ての方々。

 夏休み最後の時期だったということもあるが、会場に入ってまず驚くのは見学客に占める子供の多さである。何よりも子供の見学者を楽しませるためだろう、作品のキャプションに制作年代や絵師の出身流派等といった小難しい解説文はなく、代わりに例えば「絵の中におかしなどうぶつがいるよ!」といった、興味を引くようなユーモラスな表現になっている。これは面白い試みだと思った。通常の展覧会のように、小さな文字で、読めない漢字ばかりの何を書いてあるか分からない解説パネルがあるだけでは、それを見た子供は恐らく絵自体にも興味を引かれず、会場にいても楽しめなかっただろう。

 展示内容は、プライス氏から貸し出された若冲作品以外にも国内外の名だたる美術館から協賛を受け、江戸絵画の傑作が貸出作品として一堂に会している。しかし、会場内にそのくわしい作品解説はない。とはいえ仮に作品について詳しく知りたいと思う大人がいれば、会場の外へ出てから充実した展示カタログを買うこともできるのだから、特に問題はないだろう。

 会場内の雰囲気も、これだけ子供が大勢いれば、普段なら「騒がしい」と顔をしかめる見学者も少なくなかったはずだが、今回は目立つひらがな多用の解説パネルのせいか、不思議と突然の高い声などもあまり気にならなかったようだ。老若男女、誰もが皆で一緒に作品を楽しめればいい、という主催側の意図が、展示方法からも伝わったようだった。若冲の、空想の動物が一面に描かれた有名な屏風(銭湯のタイル画に見えるといううわさのアレ)の前では、大人も子供も魅入られたように顔をガラスに近付けて、熱心に鑑賞していた姿が印象的だった。

展示を観終って外へ出た時に気付いたのだが、県立美術館の建物に併設して図書館もあるらしい。山を背にしたガラス張りのとても居心地よさそうな空間で、ちょっと福島の人々が羨ましくなった。

県立美術館と県立図書館が併置されている

 来た時と同じバスで福島駅に戻り、また東北本線に揺られて北上を続ける。仙台駅からうまく石巻までの快速直通運転があるので、それに乗った。

 この前に、待ち時間を利用して広大な仙台の駅構内で先に第一陣のおみやげ発送を済ませ、列車旅の楽しみの一つである駅弁を探す。今回の東北旅では、食べるものに関しては全て「復興を食べて応援」の精神でもって、遠慮することなく、むしろ高いものを食べなくてはならない!と考えていたので選択に躊躇(ちゅうちょ)はない。せっかく仙台に来たのだからと、名物の牛たん弁当に決定。「炭火焼牛たん弁当・塩竃の藻塩つき」は底についている紐を引きぬくと容器内に蒸気が発生し、いつでも温かい弁当を味わう事ができる。肉も柔らかく大変美味しかった(藻塩がポイント高い!)。

 牛たん弁当を食べ終わる頃には列車は石巻に到着。既に夜になっていたが、バスと徒歩で宿まで移動してこの日の行程は終わり。出発以来、列車内で過ごした時間は9時間を超えていた。