「基本無料」でビジネスをする方法――ソーシャルゲームのマネタイズ戦略(2/6 ページ)

» 2011年09月09日 13時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

「年単位で遊べるゲームを作る」

鶴谷 それぞれいろんなことをやっていらっしゃるわけですが、ここ1〜2年のビジネスでの成功や収穫、発見、そしてその成功要因について聞かせてもらえますか。

椎葉 私はPC向けのクライアントダウンロード型のオンラインゲームの開発ではなく、輸入をしてサービスをするということをずっとやってきました。ONE-UPを作って、輸入しても仕方がないので、『ブラウザ三国志』というゲームを開発しました。『ブラウザ三国志』はAQインタラクティブが運営していて、IRで全部数字を出しているのですが、最高で月商3億円以上ありました。PCブラウザのソーシャルアプリオンラインゲームとしては断トツに近い売り上げなんですね。

 成功要因は何かと言われると、99%くらい運です。みんな一生懸命考えてゲームを作っていて、努力をしていることはあまり変わらないのですが、ただ一番大きいのは「誰よりも早く準備をしたこと」はありました。これはこれからのマーケットでも大事なことと思っていて、みんながやって当たると思っている時からやっても多分遅れている、当てようと思うなら誰よりも先にやるしかないというところがあると思います。

 僕らが『ブラウザ三国志』を作ろうと思ったのは、ブレークスルーパートナーズの投資家の赤羽雄二さんが、何かの講演で初めてソーシャルアプリのことを話されていたようなタイミングなんですね。ソーシャルアプリを作るつもりはまったくなくて、Facebookがどうということも全然気にせず、「PCの前にいる時の隙間時間をとるオンラインゲームを作ろう」という発想で作っただけなんです。

 その考え方は多分、合っていたんでしょうね。世の中が追い付いてきたというか、勝手に流れてきて、ソーシャルアプリみたいな隙間時間で遊ぶ、悪い言い方をすれば暇つぶしのゲームというか――ゲームは本質的には暇つぶしだと思っているのですが――そういうものが当たるマーケットになった時に、たまたま『ブラウザ三国志』というゲームが完成していて、たまたまそこそこいい出来で、たまたまmixiのオープン化のローンチに間に合ったというのが実際のところです。正直、「当たる外れるは運で、当たるところに挑戦するかどうかしかない」というのが強く感じたところです。

鶴谷 よく、運とか言ってごまかすんですよね。そんなはずはないので、きっと(笑)。言い方を変えますが、チームが何かのタイトルや企画を作る時に椎葉さんがチェックしているポイントはどこなんですか。

椎葉 僕たちが作るゲームで目指しているのは「年単位で遊べること」なんですね。モバイルソーシャルゲームも同様だと思うのですが、今、「年単位で遊べるように」と思って、ゲームを作っている人はほぼいません。

 反対に、僕らはあまりマネタイズを意識しないんです。長く遊べるゲームを作っておけば、マネタイズポイントはいくらでもあります。今、マネタイズと言われるものは、究極的には全部時間買いですよね。ガチャ(くじ)を引くというのも時間買いだと思います。ガチャからしか出ないものがあるにせよ、ガチャを引くことによって手に入れるスピードを上げているわけなので、アイテム販売はほぼ時間買いになっています。

 そこで大事なのは、何回も何回も繰り返してできる何かがあるかということなんですね。そもそも年単位で遊べるようなゲームデザインなんて無理なので、何千回、何万回やっても大丈夫なゲーム設計にしておくしかない。それさえあれば、そこを課金ポイントにすればもうかるわけなので、あまり気にすることはないですね。

 「何を一番見ていますか」ということに対しての答えとしては、年単位で遊べるために耐えられる、ぐるぐる回る何かがあるかというところをいつも注意しているのと、もう1つはマーケットとターゲットに適切かということをすごく意識しています。

 (ソーシャルゲームが)ターゲットにしているユーザーは今、家庭用ゲームを作っている人と違っているのですが、Xbox360のゲームを作っている人はやはり濃いゲームユーザー向けに作ってしまうんですね。でも、『怪盗ロワイヤル』をやっているユーザーには、もちろんXbox360でゲームしているユーザーもいると思うのですが、基本的にゲームへのモチベーションが低くて「暇つぶしで結構です」という方なんです。

 ユーザーがどういうプレイをしているか、どういうゲームを好んでいるかというところに立たなければ、そもそも当たるゲーム、遊ばれるゲームは作れません。今回のゲームは誰がターゲットで、どういう遊び方をして、どういう時間の使い方をするのかということを最初に考えます。おおむね、2つくらいのポイントしか見ないですね。

鶴谷 ぐるぐる回るようなものの典型パターンって、どんなものがあるんですか。

椎葉 『ブラウザ三国志』や『ドラゴンコレクション』のカード構成なんかがそうなのですが、昔からMMORPGでもある合成ですね。武器や防具を合成して強くしていくのですが、強くしていった先にもっとベースとして強いものがある。なので、それをまた買って合成しないといけない。要は永遠に強くなっていくものがある、繰り返し強くさせられるものがあるということです。

 そもそもずっと継続して遊ぶオンラインゲームはインフレします。なぜなら、みんな不幸になりたくないからです。ゲームをやってつまらないのはいけません。バランスを取るのに一番いいのは、誰かがもうかったら誰かが損したらいいのですが、無理なので絶対インフレするんです。だから、ゲームデザインとしては「インフレするものを何にするのか」ということしかありません。基本的にはキャラクターや武器防具などの成長にインフレを特化するしかなくて、そのインフレが回るところの仕組みをどうするかというのが結局一番のポイントになるのかなと思っています。

 ガチャで出てくるカードの合成なんかは典型です。これは私たちがオリジナルではなくて、元ネタは『ファミスタオンライン』のカードなんですね。『ファミスタオンライン』のカード構成は大変良くできていて、『ブラウザ三国志』でも取り入れようと考えました。まあその元ネタはもう1つ前に行けば、よくあるオンラインゲームの武器防具の合成なのですが。

深田 収穫ということでいうと、我々はモバイルの世界でずっと仕事をしている会社なんですね。まだ成功というところまでいけていないのですが、今年7月に米国の位置情報連動ソーシャルゲームで相当大きなタイトルである『MyTown』のローカライゼーションをやることが決まりました。

『MyTown』(出典:ゆめみ)

 そのライセンスがとれたのが大きなことだったのですが、そういったことを通じて、すごく感じた気付きがありました。日本でやってきたモバイルのやり方と言いますか、我々が当たり前と思っているモバイルの環境は、実は日本以外の国では全然当たり前ではないんだな、ということが体感として分かったのがすごく大きな収穫だと思っています。

 1年くらい前からサンフランシスコに行っていて向こうの連中と話をしていても、「モバイルってこれから来るよね」という感覚はみなさん持ちつつも、「実感=具体的な体験」がそんなにともなっていない、本当にやっている人があまりいないというところが分かってきました。

 モバイルからのネット利用率をみると、日本だと人口の70〜80%が使っているのですが、ほかの国、例えば米国ではスマートフォンを使ってインターネットをしているのは人口の10〜20%くらいしかいないんですね。

 日本の携帯が“ガラケー”と呼ばれて(世界では)負けそうと言われているのですが、実態はそうなっていて、日本で普通に行われているサービスの面白さや、やりようによってはワールドワイドですごく価値をアピールできるチャンスがあるということが、今回のディールでよく分かりました。逆にそれに気付いている日本人がとても少なかったのが、私たちのような小さな会社がそういうビッグタイトルを獲得できた1つの大きな要因だと思っています。

 Web業界ではソーシャル含めてスマートフォンが普及してくると、日本とか海外とか関係なくなってきているということが本当に実感としてあります。そうなると、「僕らが本当にワールドワイドの価値を発揮できる領域は、一体どこなのか」ということを強く考えていかないといけない時期に来ていると思います。

 モバイルやスマートフォンという領域は我々が価値を発揮できる数少ない領域の1つと思っていて、これから伸ばしていくべきだと思いますし、せっかくこれだけ普及している国にいるんですから、それを利用しない手はないなというのが、ここ最近のすごく大きな気付きです。

 『MyTown』は好きにいじれるようにさせてもらったので、日本独自の展開や、アジア各国への展開もできるので、それもやりたいと思っています。先ほどお話ししたゲーミフィケーションとも絡むのですが、『MyTown』が面白いのはゲームにとどまらないんですね。ゲームをやっていたら、最近よく行く店から情報やクーポンが送られてくるといった、遊びを通じてユーザーがリアルなインセンティブを手に入れられる仕掛け、日常生活を遊びに変えるようなことができるのです。

 先ほど椎葉さんがおっしゃられた「延々と遊び続けられる何か」を考えた時、実際に何か得られるものがあるというのは1つのヒントになるかなと思っていて、そうしたシステムをゲーム中に作っていければ長続きする1つの要因にできるのではないかと思いました。

本城 自分の中でやって良かったということは、2つありました。

 もともとオンラインゲームを作るためにDropWaveを作って、最初はずっとコンシューマゲームの受託開発をやっていたのですが、仕事がなくても夢をあきらめずにネットワークサーバの研究を続けていたおかげで、ここ2年くらいのソーシャルの波が来た時にすぐに乗ることができました。あきらめずにブラウザゲームなどの受注もやっていたことが良かったと思います。

 起業当時はXbox360やプレステ3の発売時期で、CEDECでもシェーダ(グラフィックに陰影などの効果を付けること)など3D関連の講演ばかりだったのですが、自分としては非常に違和感を感じていて、「本質的にゲームは人を楽しませるものであって、影がちょっと濃くなったとか、そういったところにプログラマーを何人月かけても仕方がないんじゃないか」と非常に冷めた目で見ていました。それでCEDECとかには行かずに、ひたすら自分で勉強したことが結果的に今の地位につながったところは良かったと思います。

 もう1つはもともと技術屋だったので、『NikQ ひだまりの騎士団』や『リヴリーアイランド』といったオンラインゲームを受託で開発したのですが、マネタイズとしては『リヴリーアイランド』は成功しているのですが、『NikQ ひだまりの騎士団』は失敗してしまったんですね。オンラインゲームを受注で作る以上はクライアントにもうかっていただく必要があるということで、マネタイズを勉強するために、かなり初期の段階、mixiアプリのオープンから数カ月遅れて自分たちで『わんこのお部屋』というゲームを出しました。

 それがこれまた全然もうからずにこれはダメだということで2カ月でやめて、すぐ横でMobageがめちゃくちゃもうかっていたので、Mobageにくら替えして、4カ月でまた作って、もう1回出したのですがそれももうからず、初月の売り上げが150万円ほどだったんですね。

 「すぐにやめろ」という話だったのですが、「ぜったいやめない」と研究を重ねて、あらゆるゲームのあらゆるイベントを研究して、いろんなことがやった結果、4〜5カ月経ったころに日商100万円を大きく超えるくらいまで成長することができました。その過程で、執念を持ってあきらめなかったことが良かったと思っています。

鶴谷 月商150万円から日商100万円超に成長する中で、最も大きく変えたところはどこですか。

本城 先ほど椎葉さんがおっしゃったように、もともとゲーム屋なので、ソーシャルゲームを作ると、どうしてもゲーマー向けに作ってしまうんですね。やれることをいっぱい積みこんでしまったのですがガンガンそぎ落として、ほとんどボタンクリックで散歩しかできないゲームになりました。

 その中でいろんな競い合うイベントを作って、さらにその中でもギャンブル性の高い仕組みを導入して、そこが一番当たったところでしたね。それは他社タイトルを延々研究した結果、何とか編み出したところなのですが、最初とはまったく違うゲームになってしまいました。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.