「基本無料」でビジネスをする方法――ソーシャルゲームのマネタイズ戦略(3/6 ページ)

» 2011年09月09日 13時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

大手にはこれからチャンスがある

鶴谷 お三方とも「タイミングが早かった」という話があったのですが、CEDECの来場者は大手ゲームメーカ―の人が多いんですね。大きいところにいると、時計が違うじゃないですか。早いだけが戦略になってしまうと、大手の人にとってはショックなんですね。大手で意思決定が半年くらいかかったとしても勝つにはどうすればいいんですか。辞めろというわけにもいかないと思うのですが。

椎葉 僕はよく“税金”という言い方をするのですが、大きい会社にいることは税金を払って(制約がある中で)仕事をして、給料をもらっているということです。やっぱり、会社の規模や持っているブランドを生かすようにする以外、方法はないんですね。

 あとはもう言い続けるしかないんでしょうね。私はテクモにいましたが、今の家庭用ゲームの従来型の会社は経営者層も含めて古いので、無理なことはいっぱいありますね。100回言ってダメなら、200回言うぐらい言って、仲間を募って、「これをどうしてもやりたい」という人がいなければ絶対待っていてもその仕事は来ないと思います。

 今、家庭用ゲーム大手のいろんな経営者層と会うのですが、みなさん危機感を持ってらっしゃいますね。危機感を持っていてもどうしようもないと思うこともあって、「現場がなかなか新しいことに挑戦をしようと言ってくれない」という気持ちは持っていらっしゃるみたいです。

 なので大きな会社にいるなら、自分で仲間を募って、例えば「スマートフォン向けのこういうことをどうしてもやりたい」と言い続けてみてください。それで、もし実現できたら、僕らみたいな小さい会社よりはるかにお金も、ブランドもあるわけです。Aimingは3カ月前にできたのですが、誰も知らないですよね。「Aimingとスクウェア・エニックスが同じゲームを出したら、どっちが会員とれますか?」といったら、誰が考えても分かることなので、大手が持っているものはでかいんですね。

 特にこの後、すべてではないですがいろんなものが基本無料になっていくと、大手のブランドはめちゃめちゃ生きますよ。Aimingが無料アプリを出したら、「怪しい」「これは何か危ないんじゃないか」と思われます。でも、スクウェア・エニックスやバンダイナムコが無料ゲームを出したら、めちゃめちゃ信頼感があって、手に取ってみようと思いますよね。だからこの後、大手は実はすごいチャンスがあります。スピードがないんだったら、質で勝負するか、ブランドで勝負するかです。

 ただ、スピードを上げるための努力をしないと、絶対に勝てないですね。なぜなら2年かけて作ったら、もう別のマーケットになっているからです。携帯ソーシャルゲームをやっている人は、「1年前とまったく色が違う」と思っていると思うんですね。2年かかったら終わっちゃうので、何としてでもこの会社で税金を払ってでもやり遂げるんだと思って、今の会社の良さとか、強みというのがどこにあるのかを考えて、チャレンジをしてほしいと思います。辞めるのは簡単なんで。

鶴谷 Aimingはできてすぐに社員が140人ということですが、最初からお金があるんですか。

椎葉 そうですね、近日中に何か発表すると思います。今後、すべての端末がオンラインにつながってゲームできるという時代が来ますからね。そういうところに対してチャレンジしている会社で、規模があって力もあるというところはそうないので、お金に困ることはそうないというのが実際のところです。

鶴谷 今、何ラインくらい動かしているんですか。

椎葉 来年中にスマホ向けだけで10本くらい出るんじゃないですか、計画上は。しかも、うちは2000〜3000万円の規模のゲームは作らなくて、全部規模がでかいので、そうするとちょっとクレイジーですね。受託はいくつかありますが、来年のタイトルのほとんどはオリジナルだと思います。

 年内はブラウザゲームで稼ぐのですが、僕たちのこの会社は挑戦するためにお金をいただいているので、基本的に挑戦するならスマホだなと来年はなるかなと思っています。

鶴谷 最近、コナミやコーエーテクモがモバイルソーシャルゲームを出していて、確かに大手が強くなるトレンドが始まってきたという気はします。ただ、私は逆に大手サイドに立って考えると、「モバイルソーシャルゲームのカジュアルユーザーは、そんなにブランドにこだわっていない」と椎葉さんが一番知っているくせに、という感じにも聞こえるのですが。

コナミがGREEで提供する『ドラゴンコレクション』(出典:コナミ)

椎葉 全然そんなことはなくて本心です。今、大手が作ったモバイルソーシャルアプリが名前が知られていない会社よりすごく優れているかといえば大差はないです。65点と68点みたいな差だと思っているのですが、結果には差があって、そこは今、従来からソーシャルゲームをやっている方がちょっとしんどいかなと思っているタイミングだと思っています。

 しかも、日本のモバイルソーシャルゲームで活躍している会社はすごい努力をしているのですが、グローバルサイズに出た瞬間に、また名前がまったくないところから始めるんですね。大手は名前がありますからね。これからグローバルな統一のプラットフォームができるみたいなマーケットを考えたら、ものすごい強いですね。それは僕らの弱みだと思っています。

鶴谷 つまり、本城さんとかは大変になるよと言われているのですが。何か言い返すなりしないと、仕事変えたらいいんじゃないかという話になりますが(笑)。

本城 先ほど深田さんがおっしゃったように、米国などでこういうモバイルの市場が大きく立ち上がっているので、市場の伸びの方が、会社の増える数よりもここ数年は大きいんじゃないかという感覚を持っています。だから、もし失敗して大手に負けるとなった場合には、受託で生き残ろうかなと。

深田 椎葉さんのおっしゃることは正しいと思っていて、僕自身もそうですがベンチャー系で、ソーシャルゲームをやっている会社は本当にしんどい局面ですよ。大手がどんどん参入してくると、最初からユーザーと信頼を築けるところがすごく大きいので、どうしてもベンチャーは苦しいです。

 それに結構ベタに、組織の問題とかで内部的に苦しくなったりするんですね。特にラインが複数になった場合、その管理ができないとか、マネジメントできる人材がいないとか、そういう力量がそもそも経営者にないといったことが割と普通に起こっています。たくさんのラインをやらないといけないような体力勝負になればなるほど、ベンチャーの苦しみが出てくるので、それを受け入れられるかどうかというところで苦しんでいる会社が僕の周りではすごく多いですね。

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