「基本無料」でビジネスをする方法――ソーシャルゲームのマネタイズ戦略(1/6 ページ)

» 2011年09月09日 13時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

 急速に普及が進むスマートフォン。ハードだけでなく、アプリ市場でも、多くの企業や個人がしのぎを削っている。その中でも目立ちつつあるのが、利用は基本無料でありながら、別の方法で課金を行うビジネスモデル。従来のような値付けが通用しないこの市場、その第一線で戦っている経営者たちはどのような視点からビジネスを行おうとしているのだろうか。

 コマースやサーバー関連事業などを中心としてきた株式会社ゆめみの深田浩嗣社長、オンラインゲーム黎明期から数々のヒットタイトルを世に送り出してきた株式会社Aimingの椎葉忠志社長、コンシューマーゲームの受託開発からソーシャルゲーム開発へのシフトを進めてきた株式会社DropWaveの本城嘉太郎社長が、ポリゴンマジックの鶴谷武親社長を司会に、それぞれの立場から基本無料時代のマネタイズの取り組みについて語り合った。その内容を詳しくお伝えする。

※※この記事は9月7日にパシフィコ横浜で行われたCEDECのセッション「『基本無料』時代のマネタイズと事業戦略〜ウェブ × オンラインゲーム × ゲーム、プロの頭の中にあるものは〜」をまとめたものです。
左から鶴谷武親氏、本城嘉太郎氏、深田浩嗣氏、椎葉忠志氏

キーワードはマネタイズ

鶴谷 本日はWeb、オンラインゲーム、ゲームそれぞれのプロの頭の中にあるものを、マネタイズというキーワードで探っていきたいと思います。一応、ゲームが本城さん、Webが深田さん、オンラインゲームが椎葉さんという割り振りで考えています。まず自己紹介をお願いできますか。

椎葉 私は新卒でテクモに入社して家庭用ゲーム開発を4年ほどした後、ゲーム業界が嫌になってSEを2年やって、SEがあまりにも夢がない仕事だったので、オンラインゲームの時代が来たかなと思ってゲーム業界に戻りました。自分で作るのではなく、韓国産オンラインゲームを輸入してサービスするゲームオンに1社員として入社しました。

 そのころのオンラインゲーム業界は月額定額課金が主流で、2004年くらいから今主流になっている基本無料のゲームが出始めてはいたのですが、当時日本では『メイプルストーリー』『スカッとゴルフ パンヤ』『RED STONE』の3つくらいでした。

 私はそのうちの1つの『RED STONE』のサービスをして成功して、ゲームオンは上場まで至りました。そこまでのキャリアをもってやめて、ONE-UPという会社を起業して、ソーシャルアプリを作ったつもりはあまりないのですが、ソーシャルゲームがブームになり、『ブラウザ三国志』『戦国IXA』というWebをベースとしたオンラインゲームで結果を出しました。

 そして、今年5月にAimingという新しい会社を作りました。作って3カ月くらいなのですが、社員が140人くらいいて、今はブラウザゲームを中心としていますが、恐らくこれからはスマートフォン向けを中心にやっていくのかなと考えています。

 家庭用ゲームの開発が分かり、オンラインゲームのサービスが分かり、基本無料については日本最古の時期からやっていて結果を出しているということが私のキャリアです。私はネットにつながるゲームをすべてオンラインゲームというくくりで考えていて、ソーシャルかそうでないかといった区別はあまりしていません。

鶴谷 『RED STONE』を成功と言われましたが、月商はどのくらいだったんですか。

椎葉 日本のオンラインゲームで月商3億円を超えたのは、多分通算で6本くらいしかないと思うんですね。そのうちの3本を私が担当していて、『RED STONE』は最高で月商が4億2000万円。年間だと33億円くらいの売り上げですね。ちなみに時効だから言いますけど、(開発元のL&K LOGICに払った)契約金は500万円ですからね。

 初期にプロモーションコストを1200万円と出したらダメだったので、800万円に下げましたし、ほとんどお金を使わずに売り上げをあげたんです。まあ、タイミングですよね。

 『RED STONE』は日本以外どこでも成功していないんです。韓国人は誰も知らないし、中国でも米国でも失敗していて日本だけで唯一当たっている。なぜ当たったかというのは、オンラインゲーム業界の7つの謎の1つみたいなものですね。

鶴谷 椎葉さんの役割は何なんですか。ディレクターとかプランナー、プロデューサーとかありきたりの言い方だと。

椎葉 現状の仕事としては、圧倒的にプロデューサーだと思っています。プロデューサーはお金を管理するという話がありますが、僕が考えているプロデューサーというのは、スタート位置としてマーケットを見て、一番もうかるコンテンツを考えるというところだと思います。

深田 私は2000年4月に株式会社ゆめみという会社を作ったのですが、ゲーム業界では全然なくて、モバイルのソリューションを企業に提供するという仕事をずっとやっていました。Web業界でも顧客は企業が多かったです。マクドナルドのクーポンの裏方をやったり、2001年くらいに世界でも初めてくらいのタイミングでモバイルコマースの仕組みを提供したり、ANAやJALのサービスをやったりしました。ナショナルクライアントと呼ばれるようなブリック&モルタル(店舗販売の会社)の会社に携帯電話、最近ではスマートフォンを利用した、集客や販促の手伝いをずっとやっています。

 並行して消費者向けのサービスも少しずつやっていて、まぐまぐの携帯版のようなメールマガジンの発行スタンドというのを10年くらいやっていて、2010年に売却しました。ゲームとは全然違う領域にずっといたのですが、その後ちょうど1年前にソーシャルの流れに乗って何かできるんじゃないかと思って、GREEのプラットフォームでソーシャルゲームをやりました。ただ、ゲームという領域に勘所なく始めたのであまりうまくいかず、ちょうど1年くらい経って、サービスを閉じようとしています。

 ただ、ソーシャルゲームを提供する中でいろいろ分かってきたことがありました。ソーシャルというものが今、Web業界ではものすごく盛り上がっていて、ゲーム以外にもいろんなソーシャル●●とかいったものがたくさん出てきているのですが、ぶっちゃけたところあまりうまくいっていません。

 では、なぜソーシャルゲームはうまくいったのかということなのですが、やってみるとすごくよく分かってきたんです。こういう風にソーシャルを使うとユーザーが盛り上がるんだな、という仕掛けがたくさんあると。

 「そういうものをエンタープライズ向けに使うと面白いんじゃないか」ということが最近、私がすごく興味を持っている領域です。世の中では“ゲーミフィケーション”という言葉で呼ばれているのですが、そういう領域だと我々の強みが出せるだろうということで、企業向けにユーザーを活性化させる仕掛けのエッセンスとしてゲームのノウハウを提供すれば面白いことができるんじゃないかなということでやっています

『ソーシャルゲームはなぜハマるのか ゲーミフィケーションが変える顧客満足』

鶴谷 深田さんは最近、Twitterでゲーミフィケーションについてよくつぶやいてらっしゃって、『ソーシャルゲームはなぜハマるのか ゲーミフィケーションが変える顧客満足』という本をソフトバンククリエイティブから出していらっしゃいます。

本城 DropWaveは今、新宿でスタッフ70人くらいで、オンラインゲーム開発と運営、受託開発を行っています。

 私は大学を1年で中退した後、フリーのプログラマーとして大阪で数年間仕事をしていたのですが、その時に『ウルティマ オンライン』『Diablo』といったタイトルと出会いました。それまでは格闘ゲームばかりやるアーケードゲーマーだったのですが、オンラインゲームの洗礼を受けて、それ以来オンラインゲームしか触手が動かない体になってしまいました。

 そしてオンラインゲームを作るために、オンラインゲーム会社に就職したかったのですが当時はなかったので、京都のトーセという受託開発会社に就職して、コンシューマ(家庭用)ゲームのプログラマーを5年ほどやりました。そこでは、『バイオハザード0』やプレステ2でネットワーク通信対戦をする『S.L.A.I.』のネットワークプログラムなどを担当しました。コンシューマ開発からSEまでやっていたので、サーバエンジンもネットワークも、コンシューマの描画エンジンも全部理解できたので、「これでオンラインゲームが作れる」ということで6年前にDropWaveを立ち上げました。

 「オンラインゲームを作らせてほしい」とコンシューマの会社を回ったのですが、「いや、いらない。それよりもコンシューマゲームを作ってくれ」と言われたので、DSやWiiのソフト開発をしてきました。ただ2〜3年前、mixiアプリのスタートと同時くらいに自社開発の犬を飼うゲームをリリースして、数十万人の会員を集めて、そこから自社運営でマネタイズを勉強し始めました。

 しかし、椎葉さんとは対極で、コンシューマ開発から入って、ゼロからマネタイズを学んできたので、1年くらいはまったくうまくいきませんでした。ただ最近、Mobage(旧称:モバゲータウン)で出しているタイトルはそこそこヒットしていて、月商数千万円のタイトルをいくつか運営しています。

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