日本人経営者は、フィリピンの格安マンツーマン語学学校をどう運営しているか世界一周サムライバックパッカープロジェクト(3/5 ページ)

» 2011年02月02日 08時00分 公開
[太田英基,世界一周サムライバックパッカープロジェクト]
世界一周サムライバックパッカープロジェクト

語学学校の日常は

――日々の仕事の内容を教えていただけますか。

井坂 大きく分けて3つ。1つ目は「学校の運営チェック」、2つ目は「マーケティング&広報活動」、3つ目は「学生、講師、スタッフのケア&コミュニケーション」。

 1つ目の「学校の運営チェック」はさらに大きく3点に分かれます。

 1点目は教育部門のチェックです。教育部門は基本的に当校の教育責任者のRhea(フィリピン人講師)にすべて任せています。ただし、学生視点を重視しているCNE1は、学生の声をとても大事にしています。僕は毎日、朝から各学生のクラスを見て回ることをしています。当然、クラスの中に入るわけではなく、外から教室を眺めていくことになります。

 その時には、学生と先生の顔を見ていきます。顔の表情などを見て、気になれば、学生や先生に後で、声をかけたりします。また、先生が話す時間が長いといった場合もアドバイスしています。授業の主役は学生です。先生ではありません。主役の学生が話す方が多くて当然だと思っています。さらに、学生からすると、少ししつこいかもしれませんが何度も「授業はどうですか?」と聞いています。そして、その声を直接先生に伝えています。それが僕の大事な仕事の1つだと思っています。

 2点目は学生寮や食堂のチェックです。CNE1はキャンパス内に自社直営の学校、学生寮、食堂の3つを持っています。これらすべてのチェックが必要です。そのために経営陣も学生寮に住んでいますし、食堂でご飯も食べています。朝からトイレやシャワールームのチェックもしています。汚れていないか、トイレットペーパーはちゃんとあるか、シャワーの湯が出るか、スリッパは整頓されているかといったことまでチェックしています。できていないとすぐに当校のクリーナーに指示を出します。

 洗濯もCNE1ですべて行っています。部屋別に洗濯し、部屋ごとに洗濯物を返却していきます。以前、ここのチェックをしっかりできていなかったことで、学生に迷惑をかけたことがあり、仕組みをかなり改善しました。

 食事は留学している学生の楽しみの1つなので、特に気を使います。フィリピンの他校の食事は、野菜やフルーツが少ないことに多くの日本人や韓国人が不満を持っていることを事前リサーチで知っていたので、CNE1では最初から、野菜やフルーツをしっかりと取り入れました。また他校の食事が韓国料理ばかりなのに対して、CNE1はフィリピン料理をメインにしています。食事はお陰さまで学生から良い評価をいただいています。

食事には気をつかっているという

 3点目は総務や経理部門のチェックです。これらはどこの企業や学校でも同じだと思います。特に資金繰りや設備投資など、お金関係のチェックは大事です。出ていく経費にはシビアになります。経営会議でも無駄な経費の削減について強く言っています。CNE1のような立ち上げたばかりの学校では特に大事です。当校のような語学学校は前受金があるので、前受金は会計ルールに基づいて負債扱いにし、そのお金に手をつけないようにしっかり管理しています。CNE1は語学学校では珍しく、返金制度を設けているので、前受金の管理は特に大事です。

 2つ目の「マーケティング&広報活動」は僕の大事な仕事の1つです。CNE1は直営の語学学校を経営していますが、留学エージェントやインターネット広告を使わず、学生とインターネットで直接つながるダイレクトモデルを採用しています。格安留学を実現するためにはさまざまな経営努力が必要ですが、 CNE1は広告予算と留学エージェントをカットすることで大幅なコストダウンを実現しています。広告や留学エージェントを利用すると、その経費を誰が支払うかというと、結局、学生になります。僕たちはそこでコスト削減できた分は、学生に還元するべきだと考えています。

 しかしその分、学校の認知度を上げることがとても難しい。正直、苦労しています。そこで僕はWebサイトを立ち上げ(友人に作成とメンテナンスを格安で頼んでいる)、ブログTwitterを始めました。そして、これをやり続けることを日課にしています。

 この3つも相互にリンクを貼り、循環が起こるように工夫しています。Twitterでは、フィリピン語学学校の経営者で一番多くつぶやいています。Twitter経由で入学する学生も増えています。また、開校キャンペーンもやりました。「語学留学費用半額キャンペーン! 語学留学費用世界最安値」といううたい文句で無料のPRサイトで告知すると、定員の10人は思っていた以上の早さで埋まりました。

 その後も2010年4月に開校してから、6月、7月、8月は定員オーバー状態が続いています。今の課題は9月以降の秋です。この時期はCNE1も含め、どこの学校も学生数が減少します。CNE1はこの機会をオペレーションの見直し、メンテナンス、講師の研修に力を入れようと考えています。

 3つ目は「学生&講師&スタッフのケア&コミュニケーション」。留学が初めての学生、英語が話せない学生、慣れない海外での生活でストレスや悩みを抱える学生がいます。CNE1では日本語でのケア、カウンセリング、コミュニケーションをしています。到着してからの最初の1週間は、特に意識してコミュニケーションをしています。開校してから学生のさまざまな相談に乗りました。

 学生だけでなく、講師とスタッフのケアやコミュニケーションも大事な仕事です。日本でも同じですが、人が1つの場所に共同で生活していれば、さまざまなことが起きます。CNE1を立ち上げてからもさまざまな問題が起きました。一番大きな問題は人間関係だと思います。その解決のため、スタッフや講師、マネジメントチームのコミュニケーションには力を入れなければなりません。

――今後の予定と計画は?

井坂 短期的(1〜2年)には、CNE1の宿泊施設と校舎の増築を年内に開始することを考えています。今は日本人、韓国人、フィリピン人の学生が同じキャンパス内で勉強していますが、ここにロシア人、台湾人、中国人の学生も入れていきたいです。すでにロシアの大使館の方たちとも打ち合わせを始めています。

 また、学生からの要望もある格安オンライン英会話もスタートしたいと考えています。ただし、オンライン英会話は、あくまでリアルの学校の補完的な意味合いで開始します。留学前と留学後の学生の英語学習のサポートと講師の安定的な雇用を目的としています。これにWeb講義を組み合わせることも検討しています。

 中期的(3〜5年)には、バギオとマニラにCNE1の分校を作ります。1度、学校をゼロから立ち上げた経験があるので、2校目、3校目は比較的楽だと思っています。遠隔管理の問題がありますが、複数の共同パートナーがいるので、比較的問題はないと考えています。さらにCNE1の母体学校の総合リニューアル工事を始めます。最新の校舎、病院、モール、ホテル、プールの建築を始めるので、その施設もCNE1が利用することができます。

 学生の国籍もどんどん増やせればと考えています。カリキュラムのコンテンツもどんどん拡大していきます。マンツーマン語学学校でスタートしていますが、英語はあくまでもツールだと考えていて、要は英語を使って、いかに国際社会で活用できる実践的なスキルや知識を身に付けるかが大事だと考えています。そのためのプログラムの開発に励みたいと考えています。また、日本の小学校、中学校、高校、大学とのオンライン英会話や、夏休みなどでの短期留学の導入を試みたいですね。

 長期的(5〜10年)には、マレーシアやバリ島など、アジアの英語圏にCNE1の分校を拡大することを考えています。マレーシアでは中国語と英語を学べる学校を作ることを構想しています。分校間もオンラインで結び、講師の相互補完や、フィリピン人講師の他国派遣も検討中です。できればフィリピン、マレーシア、バリ島、スリランカ、ネパールなどアジアの英語圏を中心に学校が拡大、展開できればと考えています。教育を通じた「オープンアジア」を目指します。学生が毎年、違った国で英語を勉強できれば、違った国や文化が見られて良い教育になると思います。

Copyright© SAMURAI BACKPACKER PROJECT Inc. All Rights Reserved.