『ハゲタカ』の著者に聞く――なぜ小説家になったのか?35.8歳の時間・真山仁(3/5 ページ)

» 2010年07月16日 08時00分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

 出版社が主催する○○賞に応募していましたが、2次選考で落ちることが多かったですね。原稿をろくに推敲もせず、締切当日に慌てて郵送しているようでは、賞なんてとれるわけがありません。そんなに甘い世界ではありませんから。でも当時のわたしはとにかく時間がなかったので、そのような“やっつけ的な作品”を応募せざるを得ませんでした。

 新聞記者の時代は取材をして、日々の記事を埋め、翌日また事件を追いかけるという生活を送っていました。いま振り返ってみると、自分は社会を上から見ていましたね。しかしフリーライターをしているときに、生活者の視点とは何かを体感した気がします。明日のご飯はどうしよう? 来月の家賃は払えるだろうか? そういう生活がずっと続いていましたから。ただこうした生活は、自分にとってとても良い経験だと思っています。

小説を書く前の、交渉も大切

 小説家としてデビューして6年目ですが、今でも「経費をいくら出してくれますか?」とお尋ねすることが多いですね。小説の中味の話も大切ですが、それを形にするために、どのような対応をいただけるのかという交渉も大切だと思っています。

 わたしは小説を書く前に、たくさんの取材をします。場合によっては外国にも足を運びます。編集部が「外国に行ってくれ」というのであれば、「その交通費を出してくれますか?」と聞きますね。スケールの大きな物語であれば、「これだけの取材をして、これだけの費用が必要です」と交渉します。なぜそのような話をするかというと、フリーライター時代にいろんなトラブルを経験したから。もし新聞記者を辞めてそのまま小説家になったとしたら、このような交渉はしなかったでしょうね。なのですぐに破たんしていたかもしれません(笑)。

45歳のとき、『ハゲタカ』がドラマ化

――真山が執筆した『ハゲタカ』が世に出るまで、外資系投資ファンドが日本でどのようなことをしてきたのかは、あまり知られていなかった。しかし真山は数多くの関係者から話を聞きだし、「ハゲタカ」と呼ばれる外資が、瀕死状態の日本企業を次々に買収していく姿を描いた。

 『ハゲタカ』を書くにあたり、100人以上から取材をしました。ただ原稿を書いていて、「この作品はヒットする」という手ごたえはなかったですね(笑)。読んでもらった編集者や読者からの評判は良かったのですが、単行本を出してもあまり売れませんでした(笑)。

テレビドラマ版「ハゲタカ」(出典:NHK)

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