『ハゲタカ』の著者に聞く――なぜ小説家になったのか?35.8歳の時間・真山仁(4/5 ページ)

» 2010年07月16日 08時00分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]
ALT 『ハゲタカ』(ダイヤモンド社)

 ただNHKが『ハゲタカ』を原作に、テレビドラマ化することが決定しました。NHKの土曜ドラマにはジンクスがあって、ある人からこのように言われました。「原作がドラマ化したからといって、本は売れないよ。だからあまり期待しないで」と。なのであまり期待していなかったのですが、ドラマがスタートすると、いきなり本が売れ始めました。こちらは、ただただビックリしただけ。書き手というのは、本が売れない理由というのはなかなか分からないもの。編集者に聞いても「今は不況だから……」といった答えしか返ってきませんでした。

 本が売れたといっても、生活が楽になったわけではありません。フリーライター時代の方が、安定していましたから。今でも不安定ではありますが、デビューしたばかりのころは、最も重要な仕事といえば、毎月のお金の算段でしたね(笑)。

 周囲の人からは、よくこんなことを言われます。「ずっと『ハゲタカ』を出していけばいいのでは」と。しかしわたしとしては、そういう思いはあまりありません。いずれ『ハゲタカ』について書くかもしれませんが、いまはいろんな可能性にチャレンジしたいですね。訴えたいテーマを書くために、まずは生活を安定させなければならない。しかしたくさん書いていると、小説のクオリティが下がってしまうかもしれない。そのへんのバランスをとることが、難しいですね。

見えない壁を越えていく瞬間

ALT 『プライド(上)』(新潮社)

 わたしは小説を書き始める前に、最低限の設計図を作ります。緻密なものではなく、おおまかな構成を練るといった感じですね。そして書き始めるのですが、そこでいろいろな迷いが生じることがあります。「この登場人物でいいのか」「この物語の展開でいいのか」など。こちらは書きたいという思いが強いのに、それを邪魔するような感覚ですね。そしてその邪魔がなくなってくると、書くのがとても楽しくなります。

 また書き進めていくうちに、見えない壁を越えていく瞬間があるんですよ。例えば予定していた結末ではなく、もっと面白い展開を発見するときが。

 達成感を得るときですか? それはやっぱり原稿の最後に「了」と書くときですよ。また設計図を作って、書き始めることができたときも少し達成感を覚えますね。なぜなら自分の世界観が、その小説の中に入り込んでいるから。そのときのわたしは、ものすごい集中力で原稿を書いているように思います。

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