過去最大の赤字から立ち直れるか――ソニーの業績修正会見を(ほぼ)完全収録(6/8 ページ)

» 2009年01月23日 13時50分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

――ソニーグループが営業利益率10%という経営目標を安定的に達成していくために、どんな企業構造が本質的にあるべき姿だと思われているか? それに対して、現在進めている構造改革が大体どのくらいのレベルにあって、今後どんなものが必要になってくる可能性があるかとお考えなのでしょうか?

ストリンガー 現時点は、企業全体(の姿)を(再)検討しているという状況です。「どの部分がコストが一番高すぎるか」ということを、アセットライトの観点から迅速に検討しています。そしてリストラというのはこれで十分ではなくて、これからまだまだ道はあるわけですが、方向性は正しいという風に考えています。

 「具体的に何かほかの要素をアセットライト戦略以外に足すかどうか」は定かではありませんが、例えば製造能力に関してもコスト削減も行っていますし、まさに今すべてを検討しています。

 そして、コアビジネスの再定義も今行っているところです。ですから、「現在、見直しの対象になっていないところはない」ということで、サービスビジネスの統合とか、プレイステーションとエレクトロニクスとの関係、それからハードウェアビジネスとサービスとの関係もそうです。「今、精査の対象になっていない要素はない」と(いうことは)、ある意味で危機の最も良い点だと思います。「危機を活用してチャンスに変えることができる」ということです。何も問題がない時には目をつぶって何もする必要がないわけですが、そういう状況ではないわけです。

 過去2カ月間で「マイルストーンという意味においては、かなり進歩した」という風に思います。今日プロセスが発表できたわけですが、ただこれがここで止まるわけではありません。「これから先も進めていく」、しかもアセットライトで迅速に改革を行っていきますし、コストカットもしていきます。また、「私どものコアビジネスが何か」ということも再定義していきます。これには時間がかかります。サービスとハードウェアの統合に関してもしかりです。

 ですから、(指揮系統が)コンセンサスをとるやり方から、一部はリーダーのトップダウンにシフトしているのかもしれません。スピードが重要です。「コンセンサスをとる」というのは長期的にはいいですが、短期的にはトップダウンのリーダーシップのほうが重要かもしれません。

 多くの作業が必要だということでプロセスが変わってきていますし、(多分野の)資産を組み合わせていることがソニーの強さともなっているわけで、オープンな関係・透明性ということにつながっているわけです。すべての部門が協働する、縦割りをなくすという意味においては4年間かなり進歩してきました。そして「今はコンセンサスからトップダウンのリーダーシップに変わっていかなければならない」のは自明だと思います。ですからこそ、25億ドルの構造改革という案が過去6週間で進んだのです。

――今回のさまざまな措置は短期の措置だと思いますが、どんなビジネスでも究極的には米国の消費者の回復、それから銀行、金融制度の信頼の回復がなければならないわけで、より長期的にどのような見通しを世界経済に対して考えてらっしゃるでしょうか?

ストリンガー 「短期的にこの危機が解決する」とは思っておりません。ただ、(オバマ)新大統領が米国で誕生したことで、市場にとって非常に重要な信頼要素が1つ入ったとは思います。大統領は「私どもはまさに立ち上がって、米国のために仕事をしなければいけない」と言ったわけで、私もソニーに関しては同じように考えています。

 ソニーに今起きていることで我々がコントロールできないこともあります。もちろん固定費に関しては私の責任ではないと言えませんし、プライシングに関しても同じです。こういったことに関しては対策をとらなければいけない。そして、リーダーシップが信頼回復のためには重要です。

 それから米国は不快な意思決定を引き延ばしてきましたが、ソニーに関しても同じことが言えると思います。非常に誇り高い遺産を持つ企業としては当然かもしれません。

 私の責任ということを言えば、「こういった不愉快な意思決定も行う」ということだと思います。(オバマ大統領が同様のことをすることで)米国の信頼が戻ってくる(ことと同じ)と思います。

 説教するのは簡単なことですが、実行に移すことは難しいわけです。非常に非常に競争が厳しい。特に1980年代から1990年代の始め、日本市場は非常にダイナミックで競争が激しかった。米国は「日本だけが資本主義の秘密を握っているのではないか」と怖がり、過去10年は逆に日本が「米国がその(資本主義の)秘密を握っているのではないか」と思ったわけです。

 しかし、それ(資本主義の秘密)は共有しなければいけません。オープンネスと透明性と理解、規制ももちろん重要です。と言いますのも、自由市場というのは支援を必要としているからです。

 そういった意味で米国は、良いスタートを切ったと思います。新大統領自身も就任演説の中で「ビジョンが充分ではない」という話をしましたし、それからリアリズムとタフネスという言葉も使いました。同じことがソニーに関しても言えると思います。

 もっとアグレッシブにならなければいけないわけで、もっとしたたかにそして「不愉快な決定も回避することなくする」ことが必要だと思います。それがまさに必要なリーダーシップだと(思います)。この困難な状況で、多くの企業が自動車産業であろうとほか(の産業)であろうと、これから同じことを言うことになると思います。究極的には経営陣が信頼を示して、ビジョンとエネルギーを示していく責任がある。それによって従業員を引っ張っていかなければいけない。

 社員にとっても非常に厳しい時期です。私も25年間CEOを勤めていますから、こういったレイオフ、解雇を経験いたしました。厳しい状況も悪い見出しも経験しています。ですから常に社員と仕事をする、社員と交わる、そして社員に安心をさせることで危機を乗り越えていくということを、大統領がしているんだと思います。これはすべてのトップにとって、共通のことだと思います。

――かつてソニーが不況にあえいでいた中からソニー復活を掲げて今の新体制が発足したわけですが、復活の兆しが見えたと思ったところでこの世界的な経済危機に見舞われたと思います。その環境下において正社員も含めて人員削減に手をつけざるをえない状況というのを、経営者としてはどういう心境で決断されたのでしょうか?

中鉢 私の立場で申し上げますと、「社長としてやらなければいけないことは、明確に認識しているつもりです。したがって、もちろん収益性も考えなければいけなければ、社員のモチベーションなど、いろいろ配慮しなければいけない点があることは重々承知しております。

 ただ、ソニーがグローバルな競争を勝ち抜くためには、人件費を含めた固定費の削減(を避ける)というのは、我々の調整の範囲を超えていると、努力の範囲を超えていると考えざるを得ないという結論に達しました。

 残された人員によってやるべきことはこれまでの多少リダンダンシーな(非効率ながらもすべてをソニーで行う)オペレーションから、オープンなオペレーションをやっていこうと(いうことです)。言うなれば、競争領域では我々は自前でやっていくが、非競争領域はアウトソーシングなどをやることによって、効率の改善を図っていきたいと考えております。

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