過去最大の赤字から立ち直れるか――ソニーの業績修正会見を(ほぼ)完全収録(4/8 ページ)

» 2009年01月23日 13時50分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

アセットライト戦略を推進

 続いて、中鉢社長がエレクトロニクス事業でのリストラ策などを説明した。

中鉢良治社長

中鉢 先ほどストリンガー、大根田より説明がありましたが、エレクトロニクス事業については特に世界経済の混乱による需要の低下と急激な為替変動が起こっていることで、今期の収益は大きく悪化いたします。

 この問題に対処すべく私どもは2008年10月から経営体質の強化に着手し、緊急的かつ中長期的な措置について一部はすでに実行いたしております。12月9日に発表した投資計画の見直し、事業所の再編、人員計画はその一部であり、販売体制や本社機能、間接業務の機能見直しなど、あらゆる分野を対象にしております。

 この改革の主眼は「キャッシュフロー重視の徹底」と「損益分岐点改善」の2点にございます。まず、2009年度の投資につきましては、中期経営方針から3割を減らす計画の見直しをいたしました。そのほか在庫削減や債権管理の強化に加えて、広告宣伝費や一般経費についても緊急に見直しをかけております。

 損益分岐点の改善については材料費削減に加え、事業の効率性を高めるべく聖域なき改革を行い、固定費の削減に取り組んでまいります。設計、製造分野、サプライチェーンなどのオペレーションの領域については、各事業セグメントの境界を越えた全社規模での改革を行ってまいります。ソニーの柱であります研究開発については費用の削減に取り組みますが、テーマの見直しや外部の技術を活用するオープンイノベーションのコンセプトを取り入れ、効率改善に努めてまいります。

テレビ事業の復活なくしてエレクトロニクス事業の復活なし

 私はかねてより「テレビ事業の復活なくしてエレクトロニクス事業の復活なし」と言い続けてまいりました。そのために次のような施策を推進してまいりました。「差異化技術の取り組み」「ハードウェア基本設計およびソフトウェアの統一」「設計リードタイムの短縮」「消費地生産の加速」であります。それぞれの取り組みは個々には進ちょくしておりますが、変革のスピードを上げて取り組んでいく必要があります。また、また急激な為替変動に対しては必要な地域、商品群において商品価格の見直しも行います。

 さらに「生産体制」「設計体制」「サプライチェーンマネジメント」の3つの領域での改革に重点的に取り組んでまいります。

 まず、生産体制の見直しについてでありますが、海外事業所の再編についてはすでに2008年12月に米国・ピッツバーグでの生産終了とスペイン・バルセロナにおいての生産規模縮小にともなうオペレーション改革を発表いたしました。さらに海外向け生産については、新興国の成長により、ニーズに合わせた専用モデルの比率が高まることを見据え、OEM※、ODM※※展開を加速し、アセットライトを推進いたします。

※OEM……Original Equipment Manufacturingの略。相手先のブランド名で製造すること。
※※ODM……Original Design Manufacturingの略。相手先のブランド名で設計から製造までを手がけること。

 これに加え、日本国内においては2009年6月を目途に愛知県一宮サイト(工場)での生産を終了し、稲沢サイトに集中することで、国内オペレーションの更なる効率化を図ります。これにより、正規社員については原則として稲沢に移動し、非正規社員については両事業所を合わせて約1000名の減少を見込んでおります。なお、一宮サイトの今後の活用方法は現在検討中であります。

 次に設計体制でありますが、これまでハードウェア、およびソフトウェアのグローバルな共通化に取り組んでまいりました。プラットフォームの統合を進め、各地に分散した設計開発リソースの最適化を全世界で実施してまいります。さらに効率化を加速すべく、設計および機能検証などの一部の領域をインドへオフショア化します。これらの施策によって全世界で設計および関連する間接部門の人員を、09年度末までに約3割削減いたします。

 サプライチェーンの改革については、これまでの地域に分散した生産管理体制からグローバルに管理する体制へと変更いたします。これにより全世界の調達、生産から販売までをリアルタイムにとらえる仕組みを構築し、在庫水準の削減を実行してまいります。

 これらの構造改革は商品そのものの魅力が増し、お客さまの感動につながることで初めて完結いたします。我々エレクトロニクス事業のミッションはこのような魅力ある商品を出し続けていくことであります。昨年度は世界初240ヘルツ対応商品、世界最薄、世界最高省エネ商品などを他社に先駆けて発売してまいりました。今年度につきましては、さらに環境配慮対応の商品群を拡大してまいります。また、多様化する世界のニーズに合わせ、新興国市場に向け、専用モデルなど積極的に商品を投入してまいります。

 次に半導体、コンポーネント事業領域についてお話いたします。これらの事業についても急激な需要減に見舞われており、早期の対応が必要であります。

 まず半導体事業につきましては、2008年12月に発表した通り、システムLSI領域で行ってきたアセットライト戦略をイメージセンサーにも展開し、携帯向けCMOSイメージセンサーの増産対応として、一部は外部のファウンドリーを活用してまいります。またソニーの独自技術によるCMOSイメージセンサーを携帯、カムコーダ※、デジタルスチルカメラに全面展開することにより、商品化を強化してまいります。

※カムコーダ……ビデオカメラの一種で撮影部(ビデオカメラ)と録画部(ビデオデッキ)を一体化したもの。

 システムLSI領域では、さらにアセットライトを進めてまいります。ソニーセミコンダクター九州、長崎テクノロジーセンター3号棟で製造しています旧世代のMOSウェハー生産ラインは2009年3月末をもって閉鎖し、鹿児島テクノロジーセンターへ製造を移管してまいります。

 また中小型液晶パネル事業に関しては、低温ポリシリコンならではの高付加価値モデルにシフトすることに加えて、バッテリー事業と同様に事業部、事業所が一体となった運営体制を行ってまいります。具体的には、神奈川県にある事業部機能を製造事業所である愛知県のソニーモバイルディスプレイに統合し、高機能かつ低消費電力な新開発タッチパネルなどの高付加価値モデルの開発、商品化を加速してまいります。

 一方ソニーにとっての集中事業領域であるバッテリー領域につきましては、競争優位を確保すべく積極的に投資を行ってまいります。

 中小型液晶事業と同様に事業部と事業所が一体となった運営体制に変更いたします。この度、東京本社にある事業部機能を製造事業所である福島県のソニーエナジーデバイスに移管し、事業部機能と(製造)事業所機能を統合いたします。こうした業務効率の改善を通じ、品質向上、コスト低減を図るとともに家庭用蓄電池、自動車用バッテリーの開発を推進してまいります。

人件費を削減

 次に、人事関連についてお話しいたします。まず役員、管理職の報酬についてお話をいたします。代表執行役である会長、社長、副社長の3人の賞与については全員、全額を返上いたします。そのほかの役員の賞与についても大幅な減額を行います。その削減幅は前年比70%以上を予定しております。役員の定額報酬についても減額を予定しており、減額幅などの詳細について検討をしております。この結果として賞与と役員報酬の減額を合わせて、代表執行役の年収については前年比50%以上の減額を、そのほかの役員の年収についても前年比30%以上の減額を予定しております。

 また、管理職についても賞与の大幅減額を行います。その削減幅は前年比35%ないし40%程度となる予定です。加えて月次報酬の減額も予定しており、賞与の減額と合わせて年収で10%ないし20%程度の減額となる予定です。

 2つ目の施策として、今回の構造改革により人員の最適化を図るため、社員の社外転進を支援する制度として早期退職支援制度を実施いたします。内容といたしましては特別加算金の支給と、転職支援会社の斡旋となります。

 以上、事業構造の改革に向けての施策を中心に説明してまいりましたが、エレクトロニクスビジネスにとって成長の源泉は言うまでもなくイノベーションでございます。確かに当社はいまだかつてない事業環境にありますが、「改革を進める一方でこのイノベーションの力を保ち、育てていくことが私のもう1つの重要な責務である」と認識いたしております。エネルギー、食料、医療など、さまざまな地球的規模の課題が存在する中で、我々は商品を通じて、お客さまの豊かな暮らしを支援するもの作りに取り組んでまいります。商品のネットワーク化を加速し、新たな顧客体験を生み出しつつ、お客さまの求める機能に見合った商品を提供することに全力を注いでまいります。

 この厳しい事業環境に打ち勝ち、強いソニーとなって我々は中期経営方針で掲げた目標の実現にまい進したいと考えております。

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