冒頭で私は、
と書きました。その理由は「判断基準はない。自分で決めろ」と言われることに不安を感じるようであれば、その人は実際には「他人に具体的で明快な指示をしてもらわなければ自分の行動を決められない」という可能性が高いからです。これでは、専門知識を自分の血肉として身に付けることはできません。「知識」をひたすら吸収するだけ吸収しても実際にはそれを使って「判断」することができない――そんな事態に陥る可能性が高いのです。なんとかしなければなりません。
ちなみに、表面的な要望へストレートに対応するのは禁物です。「表面的な要望」というのは、例えば「判断基準を教えてください」というのがそれで、これに対応していくと結局「こういう場合はこうしろ」というルールを決めることになってしまいます。
経験則的なやり方が通用しなくなった、変化の激しい、身分の不安定な時代において「これをやっておけば間違いない」というルールがなくなったがために不安を感じている人が、「ルールを与えてほしい」と思うのは当然です。
しかしだからといってそこで「ルール」を決めてやっても問題は解決しません。特に注意してほしいのは、この種の要望が「直接の部下」から「明確な指示を与えてほしい」という表現で出てきた場合です。リーダーシップ論としては、「リーダーは組織の目標を決定して明確な指示を出さなければならない」という考え方もありですが、それに惑わされて「指示」を出してしまったら、結局部下は指示待ち族に戻ってしまうでしょう。
これは知識や指示が不足しているものではなく「不安」というメンタルな問題なので、メンタルな対応が必要になります。「知識」を与えることはかえって邪魔になるぐらいで、「教える」という発想は通用しません。では、知識を与える発想ではダメならどうするか? ですが、現段階で私が把握しているポイントは3つあります。
の3点です。それぞれ具体的にはどういうことなのかを次回で書く予定です。
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IT技術者の業務経験を通して「読解力・図解力」スキルの再教育の必要性を認識し、2003年からその著述・教育業務を開始。2008年は、「専門知識を教える技術」をメインテーマにして研修・コンサルティングを実施中。近著に『図解 大人の「説明力!」』
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