ちょうどそのとき、取引先の顧客と「そういえばEdyが使えるお店が簡単に検索できるサイトってないよね」という話をしていた。だったらプログラミングの練習として自分で作ってみよう、と直鳥さんは思いついた。Google MapsのAPIを使い、プロトタイプを作りこんだ。それができるとほかにも情報を盛り込んでみたくなった。
無線LANスポット、学校、ホテル、マクドナルドの店舗……そうした情報を入れ込んでいくことで「位置情報のポータル」といったサイトが出来上がっていった。そのサイトをいじっているうちに「地図から探す検索サイト」を思いついた。
「僕はバイクに乗るときはいつも地図を持ち歩いています。どこかに行ったときはその地図を広げてまずは自分の位置を特定し、その周辺に何があるかを調べます。でもネット上の地図サイトはそうした操作ができない場合が多いことに気がついたのです」
普通、地図サイトを使う時には行きたいお店の名前や住所が分かっている場合が多い。その場合には便利だ。しかし行きたい場所が決まっていて、その周辺に何があるかを調べるのは難しい。そこでongmapに蓄積したデータが威力を発揮する、と考えた。
開発にかかった期間は3カ月程度。プログラミングにはさほど苦労しなかったが、デザインには苦労した。「自分にはまったくデザインセンスがなくて……」。笑いながらそう話す直鳥さんが目をつけたのは、JavaScriptのフレームワーク「Ext.JS」。Ext.JSには最初から今風っぽいインタフェースが用意されていた。それをそのまま使った。
ongmapを作り込んでいくときにリクルートとサン・マイクロシステムズがマッシュアップアワードというプログラミングコンテストを開催していることを知った。賞金は100万円。腕試しにとエントリーしたらその完成度が評価され、最優秀賞を受賞した。当時話題だったExt.JSをうまく使いこなしている点も評価の後押しをした。
マッシュアップアワードで評価され、いよいよ開発への熱が高まった。賞金を使って、よりパワフルな開発用マシンであるMacBook Proも購入した。余った賞金は、ongmapを作るにあたって利用したライブラリやAPIの作成者に寄付した。「例えばgeonamesというAPIがあります。マイクロソフトやLinkedInというサービスでも使っている位置情報のデータですが、スイスにいる個人が運営しています。こうしたデータがなければongmapは作れなかったのですから、寄付は自然な流れでした」
自分の好きな地図情報を突き詰めて考えてみたい。春にはongmapのバージョンアップも考えている。地道で泥臭い作業こそがビジネスの王道ではないか、と直鳥さんは信じている。
2007年10月、直鳥さんは同僚と立ち上げた会社をいったん退き、自分で新しい会社、セブンズを立ち上げた。ongmapは個人で作りはじめたサービスではあるが、将来的にはその会社の一サービスになればいいと考えている。
今はまだ1人で起業したばかりの直鳥さん。使っているツールはブラウザだけで使える、Google系のサービスが中心だ。Gmail、Googleカレンダー、Google Reader、Googleドキュメント。またRuby On Railsを開発した会社、37SignalsのBackpackというツールもよく使っている。「彼らが書いた『Getting Real』というWebサービス開発手法の本に感銘を受けてこのサービスを使っています。すごい会社です」
もちろんGoogleマップのヘビーユーザーである。「これは絶対、必須です」と言い切るツールはiアプリ版のGoogleマップ。「あまり使っている人を見ないのですが、かなり便利です。PCとほぼ同じ操作感で使うことができます。絶対、使った方がいいですよ(笑)」
Googleマップが登場したときに大きな衝撃を受けたという直鳥さん。「Googleマップが出てくるまでは航空写真を目にする機会はほとんどありませんでしたよね。それが全世界分、一気に無料で公開されたことに大きな感動を覚えました」。いくら地図を眺めていても飽きることがないという直鳥さん。彼が位置情報でどういった新しい価値を作り出していくのか、今後の彼のサービスに期待したい。
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