インタビュー
田口元の「ひとりで作るネットサービス」探訪:
【番外編】学生グループをまとめてネットサービスを運営――サークルライフ
今回は「ひとり」ではなく有志によるグループで開発・運営しているネットサービスを紹介する。大学サークルのチラシをネットで公開する「サークルライフ」だ。学生が中心となり、社会人がサポートして活動している。学生メンバーたちをまとめ、運営していく方法にもコツがあるようだ。
「ひとりで作るネットサービス」第12回目は、番外編として「数人で作るネットサービス」を紹介する。今回インタビューしたのは大学サークルのチラシ情報をネットに淡々とアップするサイト「サークルライフ」の運営メンバー。学生が中心となり、社会人がサポートして活動している。本業や学業をこなしつつ、グループでネットサービスを企画・運営できる秘訣はどこにあるのだろうか。

サークルのチラシを片っ端から集め、手動でスキャン
「サークルのチラシを片っ端から集めてスキャンした」という齊藤壮さん「サークルのチラシをですね、僕が新入生のふりをして集めてきてスキャンするんです」。大学4年生の齊藤壮さん(24)は笑いながらそう語る。
大学のサークルのチラシを片っ端から集めて手動でスキャン、Webサイトにアップしているのがサークルライフだ。学生はサークルライフを見て、今までならチラシが手元に届かなかったために知り得なかったサークルを発見し、コンタクトできる。
現在掲載されているチラシは360枚以上。年内に1000枚のチラシを掲載する予定だという。
5月にリリースして以来、はてなブックマークやブログでは上々の評判を得ている。「この発想はすごい!」「やろうと思っていたのに! 先を越された!」などのフィードバックが寄せられた。なにかと自動化する処理が多いネットサービスが多い中、手動でひたすらコンテンツを作り上げる“逆転の発想”が評価されたようだ。
「サークルのチラシって、新勧の時期がすぎると出回らなくなりますよね。でもサークルの多くは部員を増やしたいと思っています。その問題を解決できないかな、と思ったんです」。齊藤さんはそう説明してくれた。
「学生を支援するネットサービスを」と試行錯誤
サークルライフの立ち上げは、最初から順調だったわけではない。
立ち上げの中心メンバーは齊藤さんのほか、IT企業に勤める古川健介さん(26)、おなじくIT企業でシステムエンジニアとして働くわだっぷさん(25)の3人。古川さんとわだっぷさんは中学からの友人だ。この3人がサークルライフを立ち上げるきっかけとなったのは「ミルクカフェ」という掲示板サイトだった。
「ミルクカフェ」は2000年に古川さんが立ち上げた、中学生〜大学生が受験や授業の情報を交換する掲示板だ。その掲示板に“ハマった”齊藤さんは、途中から運営メンバーとして参加した。
「ミルクカフェにはたくさん人が集まったのですが、トラブルも多くて……企業に訴えられたことは2回、警察に呼ばれたことは数十回ありますね」。ミルクカフェは匿名の掲示板であるため“荒れた”状態のときもあり、企業や警察から投稿の削除依頼が頻繁に寄せられている。
「それでも、学生を支援するサービスを作りたい」と思っていた古川さんは、ミルクカフェの次に何かWebサイトを立ち上げられないかと考えた。そのときに声をかけたのが齊藤さんとわだっぷさんだった。
2007年に入ってから、その3人に興味を持った学生を加えてブレストをした。100件を超えるアイデアが集まり、それぞれについて熱い議論を戦わせたのだ。アイデアのうちいくつかのWebサイトは実際に作成してみた。
最初にやってみたのは「大学生活最初の3カ月を楽しく過ごすための情報ポータル」。大学に入って最初に何をしたらいいか分からない新入生のために、様々なコラムを掲載するサイトだ。ミルクカフェとも相性がいいのでは、と考えた。
「しかし、やってみたらあまり続かないことが分かって……あまり書くネタがなかったのです」。古川さんは苦笑する。
サークル情報の掲示板から、現在のサークルライフへ
ドキュメントスキャナを使ってチラシをスキャンする次に立ち上げようとしたのが「サークルの情報をアップできる掲示板」。今のサークルライフに近いコンセプトだが、サークルの人に情報をアップしてもらう必要があった。手始めにいくつかのサークルを説得しようと奔走したが、労力がかかりすぎた。
そこで仕切り直しをして生まれたのが、現在のサークルライフだ。チラシは学校に行けば自分たちで集められる。自力でスキャンする労力はかかるが、サークルの人を説得して回るよりも効率はいい。
2007年の4月から5月にかけて、サークルライフのコンセプトを固めて一気に開発した。サーバやプログラム関連はわだっぷさん、サイトのデザインは古川さん、実際にチラシをスキャンする作業は齊藤さんが担当した。リリースするまでにかけた時間は3週間ほどだ。
効率よく作業するために工夫した点はなんだろうか。「スピーディーにサイトを立ち上げるために、まず作ったのはチラシをアップロードするプログラムでした。サイトのデザインをしている間に齊藤さんがチラシをアップしておけば、デザインができ上がった時にチラシのデータが揃っていることになりますし」とわだっぷさん。
この3人以外にも、ロゴを作ってくれた人、大学でチラシを集めてくれた学生など数人の協力を得てサークルライフが立ち上がった。
手弁当で参加するメンバーの動機はどこに?
たくさんの人がプロジェクトに参加しているが、彼らのモチベーションはどこにあるのだろうか?
中心メンバーの3人は昔から知り合いだったこともあり気心も知れている。誰かが「何かをやろう」と言い出せば他の人は協力してくれるだろう。しかし、それ以外のメンバーは何がしたくて参加しているのだろうか。もちろんサークルライフはビジネスになっているわけではない。すべての人が自腹を切って参加しているのだ。
インタビュー時にその場にいた太田麻未さん(19)はまだ2回目の参加だったが、その理由を説明してくれた。「尊敬する先輩に誘われた、という理由もありますが、サイトが大きくなっていく様子を間近で見たいな、と思ったのです」
こうした「何か面白そうだ」と感じるメンバーをまとめていくために工夫している点もある。
「何度かミーティングをして気づいたのは『これ、来週までにやってきて』というのは機能しない、ということです」。ミーティングで盛り上がっても、普段の生活に戻ると、どうしても作業の優先度は落ちてしまう。そこで短時間のミーティングではなく、作業の時間を持つようにした。集まるときは8〜10時間を使い、一気に作業をしてしまう。メンバーには社会人もいるので、休日に古川さんの自宅に集まり、ひたすらスキャンやプログラミングをする。
古川さん宅に集まったメンバーたちまた、こまめに達成感を味わってもらうことも大事、と古川さんは教えてくれた。「例えば、チラシのスキャンはドサっと渡さないようにしています。15枚ずつ渡して、それが終わったら次の15枚、としています。その方が達成感がありますよね」
数時間にわたる作業が終わったら、ピザとビールで“盛大に”打ち上げをする。「打ち上げといっても、はてなブックマークを見ながら“このサイトいいよねー”と盛り上がるだけですが」と齊藤さん。
課題もある。今悩んでいるのは作業日以外のコミュニケーション手段だ。週に1度しか集まれないし、全員が集まれるわけではない。有名なツールは全部使ってみたが、どうもしっくりこなかった。メーリングリストでは課題が管理しきれないし、Wikiは使い方が難しいという。課題管理と文書管理をうまく行えるツールがあれば、といつも考えている。
お金にならなくても、やりたいことはたくさんある
「いまのところビジネス化は考えていないですね」と話す古川さん。お金になるかどうかは別として、少しでも学生の役に立てばいい、と思っている。わだっぷさんのモチベーションは「コーディングができること」。本業はシステムエンジニアだが、仕事では自分の好きなコーディングができない。自分の好きなようにコーディングができるこのプロジェクトが気に入っているようだ。
今後、サークルライフに人が集まってくればいろいろやりたいことがあるという。その1つはサークル用のCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)。部員やスケジュールの管理ができたら便利だろう、と考えている。またサークル間で試合の申し込みなどもできるとうれしい、と夢が膨らむ。また学生同士の「手渡しオークション」にも興味がある。学生は基本的にキャンパスで会うことができる。そうなれば「配送料不要のオークション」が実現できると考えているからだ。
「興味のある人にはどんどん手伝ってもらいたいと思っています」と言うサークルライフの中心メンバー3人。社会人、学生の枠を越えて“ゆるい”つながりでネットサービスをつくっていくには何が必要かを、彼らから教わった。
バックナンバー
- ひとりで作るネットサービス 一覧
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