インタビュー
田口元の「ひとりで作るネットサービス」探訪:
【番外編】カップルで作るネットサービス──うわさメーカー
カップルでネットサービスを作った2人がいる。ネット企業に勤め、開発のスキルも持つ者同士。普段からシステムの話で盛り上がる2人が、力を合わせてサービス開発を始めた事の始まりは……。
「ひとりで作るネットサービス」第15回は、番外編として「カップルで作るネットサービス」をお送りします。人の噂がどういう風に変化していくかをシミュレートできるネットサービス「うわさメーカー」を作った小張亮さん(23)と斉藤のり子さん(24)に、カップルでサービスを作る際の勘所をお聞きしました。
告白は『あなたの心にINSERT INTO!』──ではないが

「好きです……」。徹夜明けの小張さんの携帯にメールが届いたのが午前5時。ついさっきまで一緒に働いていた斉藤さんからだった。始まりは斉藤さんの一目惚れ。それ以来、斉藤さんは告白のタイミングを探っていた。
「徹夜明けだったし、判断力が鈍っているだろうから今しかない、と思って(笑)」。斉藤さんは笑いながら、そう告白に至った経緯を教えてくれた。数分後、斉藤さんの携帯に返信メールが届いた。「僕もです。付き合ってください」
そこから2人の付き合いが始まった。
2人ともネット企業に勤め、それぞれが開発のスキルを持っている。「最初は言語で告白しようと思ったのですけどね。『あなたの心にINSERT INTO!』とかでもよかったのですが、さすがにそれはふざけていると思われるかな、と思って素直に告白しました(笑)」「え、そうなの? じゃ、俺は『1 row(s) affected.』って答えたのに(笑)」
スタートアップ企業に籍を置く彼と、携帯からネットにはまった彼女
小張さんは現在23歳。大学生のときからインターネット企業での仕事を通じてエンジニアとしてのキャリアを積んできた。モットーは「まずはやってみる」。アルバイトで入ったネット企業ではブログパーツ、チャットサービス、SNSなどの開発、運営を手がけてきた。

「学生だったので、やりたいことは全部言いました」と小張さん。チャットサーバを『3日で作ってみせます!』と宣言して開発を任せてもらったり、『営業がやりたいです!』と宣言して実際に案件を受注、プロジェクトマネージャを経験させてもらったりしたという。
ただし、学生の次はスタートアップ企業からキャリアを始める──と堅く決めていた。現在は社員3名のベンチャー企業に籍を置き、技術全般を担当している。
一方、斉藤さんがネットに興味を持ったのは携帯からだった。当時流行っていた「魔法のiランド」で自分のホームページ作りに熱中した。携帯からひたすらHTMLを打ちこむ中で、自分を表現する楽しみにはまった。
「ただ、ケータイの料金が月7万円を越えちゃって」。携帯のためにバイトをする日々が続いた。そして月7万円を払い続けて数カ月を過ぎたとき、「パソコンでやればいいんじゃない?」と友人からアドバイスを受けた。
今まで携帯しか使ってこなかった斉藤さんには大きなカルチャーショックだった。「画面が大きい!」「通信速い!」。ネットにハマるのに時間はかからなかった。HTMLの書籍を買い集め、ホームページ作りに没頭した。そして彼女は決心する。「よし、これで食べて行こう」
当時埼玉にいた斉藤さんはネット関係の職を探し、東京の企業に就職する。大学のサイトを作ったり、モバイルサイトを作ったり。PHPはそのときに覚えた。「プログラムができないと雇わない、と言われたので思わず『やります!』と宣言してしまって(笑)」

そしてブログが流行っていた2003年、ライブドアでブログを開設。ホームページを通じて知り合った2chのひろゆき氏と“うまい棒”で料理を作るなど、「とにかくふざけたことをやろう!」というブログだった。その企画がウケて、1カ月後にはランキング2位にまで登りつめた(当時の1位は倉木麻衣さんのブログ)。
人気が出てきたのに合わせてブログのタイトルも変更した。「ライブドアに就職したい」という直球のタイトルに変えた直後、ライブドアの人事から連絡が来た。「企画からやってみませんか?」。二つ返事でOKし、ライブドアに転職する。ライブドアでは掲示板コミュニティの企画、運営を担当した。
その後、斉藤さんは何度か転職を重ねるが、一貫して手がけてきたのはコミュニティ関連の仕事だ。「ユーザーとの交流が楽しくて。炎上もしますけどね」。コミュニティ運営では2つのことを心がけているという。1つはオープンなコメント欄などを作り、ユーザーがフィードバックをしやすい環境を作ること、そしてもう1つは自分もちゃんとそのサービスを使っていることを見せること。運営者も自分でアカウントを作り、それをユーザーに公開することが大事だという。
カップルでWebサービスを作るための9のポイント
「ね、斉藤さんって彼氏いるの?」。会社でそう聞かれたのが始まりだった。普通に「ええ、いますよ」と答えただけだったが、数人を経るうちに「斉藤さんの彼って年上の青年実業家でお金持ちなんだって」という噂に変わっていた。その噂がぐるっと一回転して自分に戻ってきたとき「どれ1つとして合っていないことに驚きました(笑)」
後日、斉藤さんが小張さんにその話をしたとき、噂をシミュレートするサービスを作ってみたら面白いのでは──という話で盛り上がる。ちょうど連休中だった。カフェでその話をしていたのが土曜日の昼。その日の夕方には仕様を書き留め終わっていた。小張さんがプログラミングを、斉藤さんがJavascriptとHTML/CSSを担当。17時から始まった自宅開発合宿は翌日の朝6時に完了した。

最初はお互いに「2人で開発すると殺伐とした雰囲気になるのではないか……」と不安を抱いていたという。しかし、完全に作業を分けることで、相手の作業に対してイライラすることがなくなった。終わったあとは「意外とスムーズにいったね」という感想を持ったという。
小張さんはJava、Perlを得意にしていたが、今回の開発では彼女がメンテナンスしやすいようにPHPを1日で学習することにした。「echoって何だよ」「PEARってのがあるらしい」──。苦戦しながらも何とかサービスを作り上げた。「彼氏が私のためにPHPでやってくれたので、私はお返しに彼の好きな青色をデザインに入れることにしました」
斉藤さんは、開発を終えて自身のブログに「カップルでWebサービスを作るための9のポイント」をまとめた。「ネタだと思っている人も多いようですが、本人たちはいたって真剣です。是非参考にしてください」
街中を歩いているときもシステムの話で盛り上がる
「デートは基本的にインドア派です」と言い切る小張さんと斉藤さん。もちろんオンラインツールも2人の関係維持に大きく貢献している。
2人で共有しているのはcheck*padとGoogleカレンダー。どちらもcheck*padへ一発でメールできるショートカットを携帯のデスクトップに置いている。またcheck*padに入れるまでもないアイデアはメモ帳を携帯し、すかさずメモしている点も同じだ。小張さんはあまりモノを持ち歩きたくないので、パスケースに貼り付けたポスト・イットにメモするという。
NEC製の携帯が備える「デスクトップ」にcheck*padにメールができるショートカットを配置(左)。パスケースにポスト・イットを貼り付けてメモ代わりに(右)街中を歩いているときもシステムの話で盛り上がる。タッチパネルを見かけたら「このUIって何とかなるんじゃない?」「Webでこういうことしないよねー」と、どちらからともなくコメントし合うという。
また2人で何かサービスを作る予定はあるのですか? と最後に聞いた。「いえ、しばらくはこのサービスを育てたいと思います。2人の関係のように」。そう語る斉藤さんの横で笑う小張さん。「誰がうまいこと言えと(笑)」
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