日本人初の快挙! 8000メートル峰14座登頂・竹内洋岳氏インタビュー(3/4 ページ)

» 2012年08月03日 11時45分 公開
[岡本紳吾,Business Media 誠]

時間も標高も、測るのではなく感じる方がいい

――今回はPRX-7000Tを持っていきましたよね。一般に多機能時計はデジタル表示のものが多い中、PRX-7000TはPROTREK初のアナログモデルですわけですが、実際に山で使ってみてどうでしたか?

竹内: 山はデジタルな世界ではない。たとえば、ベースキャンプから頂上まで全部階段だったとしたら、それはデジタル。1000段の階段でできていて、今498段……というものなら、デジタル表示でもいいと思う。でも山というのはそんなところではなく、緩やかなところもあれば急なところもある。まっすぐ行くところもある。

 ダウラギリの場合、頂上に向かっていく途中でトラバース(横移動)があったりする。デジタルよりアナログで表示されていると、頂上までどのぐらい残っているのかというのが把握しやすい。

 今何時何分であるかを知りたいのではなくて、あとどれぐらい行動できるのかと言うのを知りたい。山というのは場所によって日が出る時間と沈む時間が違う。太陽が出てる時間というのもアナログな世界だ。日が出てるうちに帰ってこようと思ったら、あと何時間何分かというよりは、円グラフの残りあとこれぐらいだという表示の方が分かりやすい。時間を計るのではなく、時間を感じることができる。

 頂上まであとどのくらいというときも、「後、何千何百何メートルですよ」と言われるよりは、「短針が8のところに行って、長針がこの辺になればいいんだな」と理解できる。時間と標高を同じように感じられるのは、とても使いやすかった。

――PROTREK PRX7000を開発するに当たってどのような要望を出したのですか。

竹内: シンプルに、時間を見るときと標高を見るときで思考の切り替えが必要ないようにしてほしいと伝えた。

 たとえば、昔の飛行機に搭載されていたアネロイド式の気圧計をモチーフにするなどのアドバイスをした。当時の計器は使える色が限られていたのか、見やすさを考慮してか、針には赤やオレンジなどに着色されていた。

 飛行機も高所の低圧下の環境にさらされ、登山でも同じような感じかなと思った。

竹内洋岳仕様のPROTREK PRX-7000。市販モデルとの違いで大きいのは、針に着色されているところ

 山の中では測るより感じる事の方が多い。雪崩の場合も、傾斜や雪の状態を見て判断するわけだが、これを実際の山の中でやっていることは少ない。実際にあるのは「何かおかしいぞ」と感じて引き返すというようなことだ。危険性を測るのではなく、危険性を感じるというのを常にしている。そういうことでは、時間も標高も測るのではなく感じるほうがいい。それはデジタルがいいかアナログがいいかという話ではなく、どちらを選ぶか? という問題。選択肢が広がったということだ。

――次に登りたい山はありますか

竹内: ここで話すほどのものじゃなく、ぼんやりとしてある。

登りたい山やルートというのはとりとめもない話で、今回もパートナーと移動しているときに窓から見えた山を指さして「あの山はなんだ」と話していた。ひょっとしたらそこに行くのかも知れない。8000メートルとか数値的なものじゃなくて、登りたい山に行く。

別に登らなければいけない山があるわけじゃないし、自分が「こんなことしたい」と考えて、それができる山に行きたいと思う。ひょっとしたら、来年もダウラギリに登っているかもしれない。

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