トヨタの天国と地獄――GMとフォルクスワーゲンを突き放すTNGA戦略とは?池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)

» 2015年04月13日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

プラットフォーム戦略の行き詰まり

 こうして多品種展開が始まると、それぞれに求められる性能が異なるため、だんだん専用設計度が上がっていく。シャシー共用とは言いながら、新規作り起こしと変わらないほどコストがかかる時代がやってくる。

 おりしも時代はバブルに差し掛かり、それが許容される雰囲気もあった。1990年代以降、バブルが弾けると徐々にコストの締め付けが厳しくなり、1990年代後半に入ると「いかに部品を共用化するか」が重大なテーマになってくる。当時は自動車メーカーが「部品共用化率○○%」と自慢気にアナウンスしたりしていた。

 加えて、シャシーにとって厳しい衝突安全性試験が始まった。これによってシャシーの開発コストが跳ね上がり、少なくともシャシーに関しては共用化やむなしの大きな流れになっていった。

 コストダウン優先。それは時代の趨勢(すうせい)としてやむを得ない現実に見えた。特に日本ではこの部品共用化の時代は長く続いた。しかし、部品の共用化には大きな副作用がある。同じエンジン、同じシャシー、同じサスペンション……同じパーツばかりを組み合わせて作られたクルマは、どうしても商品の個性に欠ける。つまり部品共用化は、コストダウンに効いた半面、商品力を下げる側面もまた強かったのである。

 グローバル化の波が押し寄せる時代なら、なおさらだ。どこで売るかによってクルマへのニーズは異なる。例えば途上国の悪路に応じた耐久性をもたせたシャシーは、先進国ではオーバークオリティとなり、重量の重さが燃費に悪影響を与える。

新時代のモジュールプラットフォーム

 こうした問題を解決するために、2000年代の初頭に考え出されたのがプラットフォームのモジュール化という流れだ。考え方としては昔懐かしい「電子ブロック」のようなもの。クルマを構成するさまざまな要素を規格化して自由な組み合わせを可能にする手法である。前述の例に沿えば、同じ名前のクルマでも途上国ではヘビーデューティ仕様のシャシーを、先進国では低燃費仕様のシャシーを与えるといった具合だ。

 例えば先進国でスポーツバージョンを作りたければ、この途上国用の強化シャシーを使い、ひとクラス上のクルマからパワーのあるエンジンと容量の大きいサスペンションを調達してくればいい。もちろん実際にはもうちょっと複雑だが、考え方としてはそういうことだ。

 従来のクルマは言ってみれば一台ずつが専用品で構築されており、例えばひとクラス上のクルマからサスペンションを流用するというようなことが、基本的にはできなかった。話がややこしいのは兄弟車やシャシー共用モデルではそれが可能だったからだが、それではメリットと言えるほどの順列組み合わせの多様性が生まれない。

 しかしモジュール化してしまえば問題はほぼ解決する。さすがにヴィッツのエンジンルームにクラウンのエンジンを搭載するのには無理があるが、流用に関する制約が大幅に減る意味は大きい。

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