トヨタの天国と地獄――GMとフォルクスワーゲンを突き放すTNGA戦略とは?池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)

» 2015年04月13日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

硬直化した生産システムの立て直し

 筆者にはこの頃のトヨタは“シェア率の虫”に見えた。実際、2007年当時筆者が在籍していた自動車誌のインタビューで、トヨタのある重役が「(世界)シェア率10%を目指す」と豪語していた。利益の拡大でも製品満足度でもなく、最初にシェア率の話が出たのは、ちょっとした衝撃だった。そしておそらく、10%を獲りに行くというその言葉は、相当に本気の発言だったように思う。

 世界シェアの拡大を目指してきたトヨタは、毎年50万台規模の生産力増強を行ってきた。目指すは生産キャパシティの増大であり、そのためにより多くのクルマをより安く作るという揺るぎない方針があった。

 それがなぜリーマンショックで揺らいだのか。それは工場の設備、ひいては生産に対する根本的な考え方に問題があったからだ。一言で言えばトヨタの工場は柔軟性を欠いていた。常時フル稼働で回すことしか想定されていなかった工場は、リーマンショックで需要が落ち込み、稼働率を落とすと効率が激減した。

米国ミシシッピ工場の風景。既存の工場の効率改善プログラムが終了し、凍結解除後には新たに中国やメキシコへの新工場建設の噂が流れている

 生産ラインの単位時間生産数という特定の条件に特化しすぎたあまり、多様性が失われていたのである。それはどういうことか? 単純化して言えば100台作るのは効率よく安くできるが、50台に減らすと途端に効率が悪くなる、ということだ。工程におけるロットの単位が大きすぎることが原因である。

 トヨタは生産工程の問題点を洗い出し、2011年までに「トヨタグローバルビジョン」を策定した。グローバルビジョンは生産工程の枠内にとどまらず「クルマづくりのすべてを見直す」として、クルマの設計、部品の調達、生産技術と設備、人材育成にまで及ぶ。工場問題のソリューションを敷衍(ふえん)して、クルマ作りの全てにおいて柔軟性を持たせる方向へ一気に転換を試みるプランだ。

 転んでもただでは起きないどころか、失敗をしゃぶり尽くす精神。これだけの包括的プランを失敗から3年後に作り上げたことには、トヨタの改革意思の凄みを感じさせる。しかもその改革は「走りながら」行われている。2008年に赤字に転落したトヨタは、グローバルビジョンの策定を待たずして、2009年にはすでに決算は黒字化(2007年の黒字額とは1ケタ違うとはいえ)、現場の改革も成果を上げ始めていた。

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