トヨタの天国と地獄――GMとフォルクスワーゲンを突き放すTNGA戦略とは?池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/5 ページ)

» 2015年04月13日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 3月26日、『トヨタ自動車、「もっといいクルマづくり」の取り組み状況を公表』(参照リンク)という1通のリリースが配信された。

トヨタ自動車 豊田章男社長。「経営を取り巻く環境が激変する中で、もはや、これまでと同じ考え方や仕事の仕方では、持続的な成長は望めない。トヨタ自らが新しいビジネスモデルを構築することが必要な時代に入った」と語った(2015年3月、提供:トヨタ自動車)

 これが、普段リリースを見慣れている筆者にもあまりお目にかかったことのない、一風変わったリリースだった。通常、プレスリリースの内容というのは、新製品のニュースやIR的な企業情報なものだが、これは違った。トヨタの覚悟表明めいた内容になっていたのだ。

 しかし、このリリースをパッと読んで、何を言いたいのかすぐに分かる人は少ないと思う。実はこれ、2007年以来のトヨタを俯瞰(ふかん)的に捉え直さないと意味が分からないのだ。そこを押さえてリリースを読み直すと、トヨタがこの10年間繰り広げてきた世界一の自動車メーカーの座を賭けた戦いへの決意表明、もっと言えば勝利宣言に見えてくる。GM、フォルクスワーゲンと三すくみのトヨタが、一進一退の状態から一歩抜け出すために何をやろうとしているのか? 今週はそんな、トヨタの戦略と決意の話をしてみたい。

3月26日のプレスリリース『トヨタ自動車、「もっといいクルマづくり」の取り組み状況を公表』。内容は「1)TNGAの取り組み状況、2)生産分野での取り組み状況」と大きく二つに分けられる

トヨタの天国と地獄

 2007年、トヨタはGMとほぼ並んで、自動車販売台数世界ナンバーワンに王手をかけた。売り上げは26兆円、営業利益2兆2700億円、経常利益2兆4400億円、純利益1兆7000億円。この巨大な売り上げ規模にも関わらず粗利益率が8.7%にも達する上、経常利益もプラス。まばゆいばかりのエクセレント企業ぶりだ。その日の出の勢いは、向かう所敵なしに見えた。

 翌2008年の上半期ではついにGMを抜き世界一を奪取。しかし前年のサブプライムローンに加え、9月に起きたリーマンショックに足をすくわれたトヨタは一気に赤字に転落する。売上20兆5300億円、営業利益マイナス4600億円、経常利益マイナス5600億円、純利益マイナス4370億円。衝撃的な転落と言っていいだろう。

 GMに急速に追いつき、一時は抜きながらも、一気に引き離すどころか赤字転落で苦悩するトヨタ。そこへ東欧圏と中国での好調を提げてフォルクスワーゲンが肉薄してきた。天国と地獄を地で行くようなこの出来事に対してトヨタ内部で深く反省がなされた。今回の新事業プランはその成果だと言えるだろう。

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