第三セクター鉄道が、赤字体質から抜け出せないワケ杉山淳一の時事日想(3/4 ページ)

» 2012年02月10日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

実態は延命予算に

 しかし、この胸算用はあっさりと崩れてしまった。1985年のプラザ合意(※)で政府が低金利政策に転じたため、資金の運用益は目論見通りにならなかった。バブル景気のお陰で、多少は営業収入も良かったかもしれないが、なにしろ元々は赤字で国鉄がさじを投げた路線なので、簡単には黒字にならない。そしてバブルが崩壊すると景気対策でゼロ金利政策が始まり、基金の運用どころの話ではなくなってしまう。

※プラザ合意:1980年代のドル安に対して、G5が決定した協調介入。これにより円高傾向となり、日本政府は内需拡大策を講じた。

 仮に5000万円の赤字が出れば、とりあえず財源は安定化基金で賄うしかない。安定化基金の6億円から5000万円ずつ切り崩せば、単純に計算しても12年は延命できる。まだ12年あるから、その間になにか手を打とう、という考えに変わっていった。

 しかし、なにか手を打とうとして、本当に手を打った第三セクターはあっただろうか。結果をみれば、成功した第三セクターはほとんどなかった。JRから特急列車が乗り入れて線路使用収入を見込める智頭急行、伊勢鉄道、北越急行などのほかは悲惨な結果となっている。どの会社も運行本数を減らしたり、観光キャンペーンなど努力はしただろうが、少子化やクルマの普及など時代の流れには抗えなかった。

 そしてもうひとつの問題は、第三セクターならではの特徴である。自治体の出資が多い第三セクターでは、その自治体の首長が社長を兼務する場合も多い。多忙な自治体首長にとって、第三セクターの社長業務にどれだけ力を注げるのか。そもそも企業人、経営者の資質はあるのか。そして市町村長には4年の任期がある。任期がすぎれば社長引退。そんな人に10年、20年先を見据えた経営ができるのか。

 「とりあえず、任期中は基金があるから廃止しない。次の市長がなんとかするだろう」

 そうした「問題の先送り」状態になっていた可能性も大いにある。経営安定基金は、第三セクター鉄道の経営に取り組む予算ではなく、問題を先送りするための金庫、これが実情ではないだろうか。まるで不治の病の“末期医療”である。薬がなければ死んでしまう。薬のストックがあるうちは投与を続けて延命しよう。そのうちに特効薬が出るだろう……と根拠のない楽観論だったのかもしれない。

 2009年に筆者がある第三セクターを訪れた時(関連記事)、当時の市長が「交付金を使って途中駅に列車交換設備を作れば、運行本数を増やして利用者増加を狙えたはず。しかし私が就任したときは、すでに資金が底を付いていた」と悔しそうに話していた。「経営安定基金=延命予算」という考えでは、設備投資をすれば命を縮める。なので安易に手をつけることは難しかったようだ。

JR四国牟岐線と阿佐海岸鉄道が接続する海部駅。JRの列車の一部が阿佐海岸鉄道まで乗り入れる

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