第三セクター鉄道が、赤字体質から抜け出せないワケ杉山淳一の時事日想(2/4 ページ)

» 2012年02月10日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

経営安定基金とは何か

 企業が赤字決算となった場合、銀行からお金を借りるか、新たな出資を要請するか、どちらかを選択することが多い。最悪は倒産、解散だ。地方自治体が経営参加する第三セクター会社にとって、赤字が出た場合は、自治体が保証して金融機関から借りるか、自治体の一般会計から補てんするか、という選択になる。保証や補てんというと、いかにも自治体が自立しているように見えるが、保証の中身は不動産などではなく「地方税を徴税する活動」であり、補てんの原資も税金である。つまり、第三セクターが赤字になれば税金が投入される。これは分かりやすい仕組みだ。

 ところが、鉄道のローカル線問題になると、第三セクターのおサイフと自治体が管理する税金の間に「経営安定基金」という仕組みが登場する。これはいったい何なんだろう。「基金」というからには「運用の原資」とみるのが自然だ。実際、経営安定基金は運用基金として設計された……時期もある。しかし、いまや運用どころではなく、単なる赤字補てん用の金庫になってしまった感がある。

 鉄道の赤字ローカル線問題について、経営安定基金という言葉が登場したのは、1980年に国鉄再建法(日本国有鉄道経営再建促進特別措置法)が成立してからだ。37兆円にも及ぶ国鉄の赤字を削減するため、全国の赤字ローカル線を廃止すると決定した。

 このとき、政府は国鉄から赤字ローカル線を切り離すために、沿線自治体に次のような条件を出した。

  • バスや第三セクター鉄道に転換する場合は、その路線の距離1キロメートル当たり3000万円までの転換交付金を付与する。
  • 転換から5年間は政府が赤字を補てんする。ただし、バスの場合は全額、鉄道の場合は半額まで。
  • 転換に対する対策協議会が2年後に結論を出さなければ、鉄道は廃止とする。
阿佐海岸鉄道の車両ASA-100形(左)、ASA-100形の車内。居心地の良い座席が並ぶも乗客は少ない(右)

 廃止対象となった路線の沿線自治体は、廃止を受け入れるか、自分たちで運行するかの選択を迫られた。ほとんどの自治体は、民間企業にも出資してもらって「第三セクター」という形態で鉄道を残す選択をした。

 さて、第三セクター鉄道を作った自治体には、国から転換交付金が付与されるわけだ。そのお金をどうすればいいのか。出資割合に応じて分配して、一般財源で管理するというわけにはいかない。そこで、転換にあたって車両を購入したり、設備を改造する費用の残りをもとに基金を結成し、運用益で赤字を補てんしようと考えた。これが「経営安定基金」である。路線の長さが20キロメートルだったら、交付金は6億円。この8割を基金として、年利3%で運用すれば1440万円を得られる。5年間は赤字の半額を国が面倒みてくれるし、なんとかなるだろう、という目算だ。

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