それでも経営安定基金にはメリットがあるのかもしれない。単年度決算の自治体予算で赤字を補てんすれば、1年単位で第三セクター鉄道の経営評価が必要になり、毎年のように廃線問題が浮上する。経営安定基金を積んでおけば、自治体の予算のサイクルから分離され、複数年度に渡る事業計画を立てられる。いま中学生が何人いて、何年後に高校通学利用者がどのくらいあるのか、2年間で住宅を開発し通勤需要を掘り起こそう、などという展望のもとで設備投資や改善の計画を立てられる。
しかし、基金として運用益が見込めない以上、すでに経営安定基金のメリットは少ない。結局は自治体が補てんしなくてはいけない。そう考えると、肥薩おれんじ鉄道沿線自治体が経営安定基金を取り崩したという判断は英断だといえる。そこには「問題を先送りせず、単年度の収支を見極めて対策を打とう」という強い意志さえ感じられる。
鹿児島県議会の肥薩おれんじ鉄道活性化議員連盟は、さっそく地元の人々との意見交換会を開き、対策を検討し始めたという。
経営安定基金制度を維持した阿佐海岸鉄道の沿線自治体はどういう目算があるのだろうか。低金利が続き、基金運用益は見込めないなかでの基金維持。それは末期医療の薬をストックしただけか。あるいは、経営改善のための新たな設備投資の資金か。
その阿佐海岸鉄道では現在、DMV(※)の実証実験を行っている。DMVがローカル線の特効薬かどうかは疑問が残るが、基金を維持するというのであれば、延命予算だけではなく、どうか前向きな設備投資に振り向けてもらいたい。
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