「この国の持てる力の全てを結集しようではありませんか」――野田首相所信表明演説全文(3/4 ページ)

» 2011年09月13日 20時19分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

債務が債務を呼ぶ財政運営は続けられない

野田 大震災前から、日本の財政は国の歳入の半分を国債に依存し、国の総債務残高は1000兆円に迫る危機的な状況にありました。大震災の発生により、こうした財政の危機レベルはさらに高まり、主要先進国の中で最悪の水準にあります。国家の信用が厳しく問われる今、雪だるまのように、債務が債務を呼ぶ財政運営をいつまでも続けることはできません。声なき未来の世代に、これ以上の借金を押し付けてよいのでしょうか。今を生きる政治家の責任が問われています。

債務残高の国際比較(対GDP比、出典:財務省)

 財政再建は決して一直線に実現できるような単純な問題ではありません。政治と行政が襟を正す歳出削減の道。経済活性化と豊かな国民生活がもたらす増収の道。そうした努力を尽くすとともに、将来世代に迷惑をかけないためにさらなる国民負担をお願いする歳入改革の道。こうした3つの道を同時に展望しながら歩む、厳しい道のりです。

 経済成長と財政健全化は、車の両輪として同時に進めていかなければなりません。そのため、昨年策定された新成長戦略の実現を加速するとともに、大震災後の状況を踏まえた戦略の再強化を行い、年内に日本再生の戦略をまとめます。

 こうした戦略の具体化も含め、国家として重要な政策を統括する司令塔の機能を担うため、産官学の英知を集め、既存の会議体を集約して、私が主宰する新たな会議体を創設します。

 経済成長を担うのは、中小企業を始めとする民間企業の活力です。地球温暖化問題の解決にもつながる環境エネルギー分野、長寿社会で求められる医療関連の分野を中心に、新たな産業と雇用が次々と生み出されていく環境を整備します。また、海外の成長市場とのつながりを深めるため、経済連携の戦略的な推進、官民一体となった市場開拓を進めるとともに、海外からの知恵と資金の呼び込みも強化します。

 「農業は国の本なり」との発想は、今も生きています。食は命をつなぎ、命を育みます。消費者から高い水準の安全・安心を求められるからこそ、農林漁業は新たな時代を担う成長産業となりえます。東北の被災地の基幹産業である農業の再生を図ることを突破口として、食と農林漁業の再生実現会議の中間提言(参照リンク、PDF)に沿って、早急に農林漁業の再生のための具体策をまとめます。

 農山漁村の地域社会を支える社会基盤の柱に郵便局があります。地域の絆を結ぶ拠点として、郵便局が3事業の基本的なサービスを一体的に提供できるよう、郵政改革関連法案の早期成立を図ります。また、地域主権改革を引き続き推進します。

日本に希望と誇りを取り戻すために

野田 東日本大震災と世界経済危機という2つの危機を克服することとあわせ、将来への希望にあふれ、国民ひとりひとりが誇りを持ち、「この国に生まれて良かった」と実感できるよう、この国の未来に向けた投資を進めていかなければなりません。

 かつて我が国は「一億総中流の国」と呼ばれ、世界に冠たる社会保障制度にも支えられながら、分厚い中間層の存在が経済発展と社会の安定の基礎となってきました。しかしながら、少子高齢化が急速に進み、これまでの雇用や家族のあり方が大きく変わり、人生の安全網であるべき社会保障制度にもほころびが見られるようになりました。かつて中間層にあって、今は生活に困窮している人たちも増加しています。

 あきらめはやがて失望に、そして怒りへと変わり、日本社会の安定が根底から崩れかねません。失望や怒りではなく、温もりある日本を取り戻さなければ希望と誇りは生まれません。

 社会保障制度については全世代対応型へと転換し、世代間の公平性を実感できるものにしなければなりません。

 具体的には、民主党、自由民主党、公明党の3党が合意した子どもに対する手当の支給や、幼保一体化の仕組み作りなど、総合的な子ども・子育て支援を進め、若者世代への支援策の強化を図ることが必要です。医療や介護の制度面での不安を解消し、地域の実情に応じた、質の高いサービスを効率的に提供することも大きな課題です。さらに、労働力人口の減少が見込まれる中で、若者、女性、高齢者、障害者の就業率の向上を図り、意欲あるすべての人が働くことができる全員参加型社会の実現を進めるとともに、貧困の連鎖に陥る者が生まれないよう確かな安全網を張らなければなりません。

 本年6月に政府・与党の社会保障・税一体改革成案(参照リンク、PDF)が熟議の末にまとめられました。これを土台とし、真摯に与野党での協議を積み重ね、次期通常国会への関連法案の提出を目指します。与野党が胸襟を開いて話し合い、法案成立に向け合意形成できるよう、社会保障・税一体改革に関する政策協議に各党・各会派の皆様にご参加いただきますよう、心よりお願いいたします。

 日本人が希望と誇りを取り戻すために、もう1つ大事なことがあります。それは、決して内向きに陥らず、世界に雄飛する志を抱くことです。

 明治維新以来、先人たちは果敢に世界に挑戦することにより、繁栄の道を切りひらいてきました。国際社会の抱える課題を解決し、人類全体の未来に貢献するために、私たち日本人にしかできないことが必ずあるはずです。「新たな時代の開拓者たらん」という若者の大きな志を引き出すべく、グローバル人材の育成や、自ら学び考える力を育む教育など人材の開発を進めます。また、豊かな故郷を目指した新たな地域発展モデルの構築や、海洋資源の宝庫と言われる周辺海域の開発、宇宙空間の開発・利用の戦略的な推進体制の構築など、新しい日本のフロンティアを開拓するための方策を検討していきます。

 国民のみなさまの政治・行政への信頼なくして、国は成り立ちません。行政改革と政治改革の具体的な成果を出すことを通じて、信頼の回復に努めます。すでに終戦直後の昭和21年、「国民の信頼を高めるため、行政の運営を徹底的に刷新する」旨の閣議決定がありました。60年以上を経たにもかかわらず、行政刷新は道半ばです。

 行政に含まれる無駄や非効率を根絶し、真に必要な行政機能の強化に取り組む。こうした行政刷新は、不断に継続・強化しなければなりません。政権交代後に取り組んできた仕分けの手法を深化させ、政府・与党が一体となって「国民の生活が第一」の原点に立ち返り、既得権と戦い、あらゆる行政分野の改革に取り組みます。

 真に国民の奉仕者として能力を発揮し、効率的で質の高い行政サービスを実現できるよう、国家公務員制度改革関連法案の早期成立を図り、国家公務員の人件費削減とあわせて、公務員制度改革の具体化を進めます。

 政治改革で最優先すべき課題は、憲法違反の状態となっている1票の格差の是正です。議員定数の問題を含めた選挙制度のあり方について、与野党で真剣な議論が行われることを期待します。

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