「この国の持てる力の全てを結集しようではありませんか」――野田首相所信表明演説全文(2/4 ページ)

» 2011年09月13日 20時19分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

最大の課題は東日本大震災からの復旧・復興

野田 言うまでもなく、東日本大震災からの復旧・復興は、この内閣が取り組むべき最大、かつ最優先の課題です。これまでにも政府は、地元自治体と協力をして、仮設住宅の建設、がれき撤去、被災者の生活支援などの復旧作業に全力を挙げてきました。発災当初から比べれば、かなり進展してきていることも事実ですが、迅速さに欠け、必要な方々に支援の手が行き届いていないというご指摘もいただいています。

 この内閣がなすべきことは明らかです。復興基本方針(参照リンク)に基づき、ひとつひとつの具体策を着実に、確実に実行していくことです。そのために、第3次補正予算の準備作業を速やかに進めます。自治体にとって使い勝手の良い交付金や、復興特区制度なども早急に具体化してまいります。

 復旧・復興のための財源は、次の世代に負担を先送りすることなく、今を生きる世代全体で連帯し、負担を分かち合うことが基本です。まずは歳出の削減、国有財産の売却、公務員人件費の見直しなどで財源を捻出(ねんしゅつ)する努力を行います。その上で時限的な税制措置について、現下の経済状況を十分に見極めつつ、具体的な税目や期間、年度ごとの規模などについての複数の選択肢を多角的に検討します。

 省庁の枠組みを超えて被災自治体の要望にワンストップで対応する復興庁を設置するための法案を早急に国会に提出します。被災地の復興を加速するため、与野党が一致協力して対処いただくようお願いをいたします。

 原発事故の収束は、国家の挑戦です。福島の再生なくして、日本の信頼回復はありません。大気や土壌、海水への放射性物質の放出を確実に食い止めることに全力を注ぎ、作業員の方々の安全確保に最大限努めつつ、事故収束に向けた工程表(参照リンク)の着実な実現を図ります。世界の英知を集め、技術的な課題も乗り越えます。原発事故が再発することのないよう、国際的な視点に立って事故原因を究明し、情報公開と予防策を徹底します。

 被害者の方々への賠償と仮払いも急務です。長期にわたって不自由な避難生活を余儀なくされている住民の方々。家畜を断腸の思いで処分された畜産業者の方々。農作物を廃棄しなければならなかった農家の方々。風評被害によって、ゆえなく廃業に追い込まれた中小企業の方々。厳しい状況に置かれた被害者の方々に対して、迅速、公平かつ適切な賠償や仮払いを進めます。

 住民の方々の不安を取り除くとともに、復興の取り組みを加速するためにも、すでに飛散してしまった放射性物質の除去や周辺住民の方々の健康管理の徹底が欠かせません。特に、子どもや妊婦の方を対象とした健康管理に優先的に取り組みます。毎日の暮らしで口にする食品の安全・安心を確立するため、農作物や牛肉等の検査体制のさらなる充実を図ります。

 福島第1原発の周辺地域を中心に、依然として放射線量の大変高い地域があります。先祖代々の土地を離れざるを得ない無念さと悲しみをしっかりと胸に刻み、生活空間にある放射性物質を取り除く大規模な除染を、自治体の協力も仰ぎつつ、国の責任として全力で取り組みます。

 また、大規模な自然災害や事件・事故など国民の生命・身体を脅かす危機への対応に万全を期すとともに、大震災の教訓も踏まえて、防災に関する政府の取り組みを再点検し、災害に強い持続可能な国土作りを目指します。

世界に率先して新たなエネルギー社会を築く

野田 大震災からの復旧・復興に加え、この内閣が取り組むべきもう1つの最優先課題は日本経済の建て直しです。大震災以降、急激な円高、電力需給のひっ迫、国際金融市場の不安定化などが複合的に生じています。産業の空洞化と財政の悪化によって、国家の信用が大きく損なわれる瀬戸際にあります。

 日本経済の建て直しの第1歩となるのは、エネルギー政策の再構築です。原発事故を受けて、電力の需給がひっ迫する状況が続いています。経済社会の血液とも言うべき電気の安定的な供給がなければ、豊かな国民生活の基盤が揺るぎ、国内での産業活動を支えることができません。

 今年の夏は、国民のみなさまによる節電のお陰で、計画停電を行う事態には至りませんでした。多大なご理解とご協力、ありがとうございました。

 我慢の節電を強いられる状況から脱却できるよう、ここ1、2年にかけての需給対策を実行します。同時に2030年までをにらんだエネルギー基本計画を白紙から見直し、来年の夏を目途に新しい戦略と計画を打ち出します。その際、エネルギー安全保障の観点や費用分析などを踏まえ、国民が安心できる中長期的なエネルギー構成のあり方を、幅広く国民各層のご意見をおうかがいしながら、冷静に検討してまいります。

 原子力発電について、脱原発と推進という二項対立でとらえるのは不毛です。中長期的には「原発への依存度を可能な限り引き下げていく」という方向性を目指すべきです。同時に、安全性を徹底的に検証・確認された原発については、地元自治体との信頼関係を構築することを大前提として、定期検査後の再稼働を進めます。原子力安全規制の組織体制については、環境省の外局として原子力安全庁を創設して規制体系の一元化を断行します。

 人類の歴史は、新しいエネルギー開発に向けた挑戦の歴史でもあります。化石燃料に乏しい我が国は、世界に率先して新たなエネルギー社会を築いていかなければなりません。我が国の誇る高い技術力を生かし、規制改革や普及促進策を組み合わせ、省エネルギーや再生可能エネルギーの最先端のモデルを世界に発信します。

 歴史的な水準の円高は、新興国の追い上げなどもあいまって、空前の産業空洞化の危機を招いています。我が国の産業をけん引してきた輸出企業や中小企業が正に悲鳴を上げています。このままでは国内産業が衰退し、雇用の場が失われていく恐れがあります。そうなればデフレからの脱却も、被災地の復興もままなりません。

 欧米やアジア各国は、国を挙げて自国に企業を誘致する立地競争を展開しています。我が国が産業の空洞化を防ぎ、国内雇用を維持していくためには、金融政策を行う日本銀行と連携し、あらゆる政策手段を講じていく必要があります。まずは予備費や第3次補正予算を活用し、思い切って立地補助金を拡充するなどの緊急経済対策を実施します。さらに円高メリットを活用して、日本企業による海外企業の買収や資源権益の獲得を支援します。

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