アマゾンに負けるな! イーベイに見る米国ネット通販ルネッサンス(1/4 ページ)

» 2011年07月22日 08時00分 公開
[石塚しのぶ,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:石塚しのぶ

ダイナ・サーチ、インク代表取締役。1972年南カリフォルニア大学修士課程卒業。米国企業で職歴を積んだ後、1982年にダイナ・サーチ、インクを設立。以来、ロサンゼルスを拠点に、日米間ビジネスのコンサルティング業に従事している。著書に「『顧客』の時代がやってきた!『売れる仕組み』に革命が起きる(インプレス・コミュニケーションズ)」がある。


 先月の中旬、米サンディエゴで行われた世界最大のeコマース・カンファレンスに出席してきたのだが、そこで、今まさに力強く波打つ米国eコマースの胎動を実感することができた。

 米国のネット通販も誕生からざっと15年余。落ち着くどころか、「ルネッサンス(再生)」とも呼ぶべき盛り上がりを見せている。その要因としては、近年米国で盛んに言われているところのSO・LO・MOコンシューマーの台頭が大きいようだ。

 SO・LO・MOとは、ソーシャル(SOcial)、ローカル(LOcal)、モバイル(MObile)のことだ。ネット通販が始まった頃、「24/7(年中無休)」が合言葉になったが、「24時間いつでもショッピングができる」という「いつでも」は実現できても、「どこでも」はままならなかった。

 それが、近年のフェイスブックのようなソーシャル・インフラの整備や、スマートフォンやタブレットPCなどの新しいパーソナル・デバイスの普及に後押しされ、購買だけではない、生活のあらゆる場面での「どこでも」化が現実のものになろうとしている。

 また、SO・LO・MOは究極の「ながら買い」を可能にする。友人の近況をチェックしたり、友人と会話したりし「ながら」買い物ができるのがf-commerce(フェイスブック・コマース)の醍醐味だ。

 米国の人気テレビドラマ『デクスター』のフェイスブック・ページで展開されて話題となったウォール・ストア(Wall Stores)がこの典型である(今年のバレンタイン・シーズンに臨時で展開されたもので、現在は存在しない)。その名の通り、ウォール上の書き込みをクリックするだけで、ウォールを離れることなしに購買のトランザクションが完結できる。友人との会話に興じながら、ふと気になったものを手にとり、気に入ったらレジに持っていって支払いを済ませる。リアルのショッピングにはよくあることだが、これをネットの世界に巧みに移行したのが「ウォール・ストア」である。

 これも「ながら買い」の一例だが、米国のある調査によれば、iPadの利用者のうち70%が「テレビを見ながらiPadを使う」という。テレビで見て気になったものをすぐグーグル検索して、気に入れば即購入する……という消費行動がそう珍しくもなくなっているそうだ。「iPadなら、わざわざデスクまで歩いていってPCをオンにしなくても、カウチに寝転がったままショッピングできる」という安易さも、iPadの人気を引き金とした「T-Commerce(タブレット・コマース)」の台頭に貢献しているという。

 コムスコアの発表によれば、米国ではモバイル機器の3台に1台がスマートフォンだ。日本でも「スマホ」利用者が976万人に達した。スマートフォンを片手に、「今、どこにいるか(ロケーション)」をベースに最寄の店舗情報を調べたり、比較ショッピングをしたり、友達の意見を聞いたり……といった行動が日常的なものになってきている。PCの前にはりついていなくても、まさしく、「いつでも、どこでも」自分の欲しい情報があちらからやってくる。真の「パーソナル・コンピューティング」が可能な時代になった。

 「インフラ+ツール」の発達が、生活者マインドに変革をもたらし、その結果、新しい買い方、売り方が生まれている。売り手にとっては、無限の好機に満ちた、だからこそハードな時代でもある。

 「ネット・オークション」のパイオニアであり、ネット通販初期の米国で一世を風靡したイーベイは、定価型マーケットプレイスのアマゾンに押され、一時期「落ち目」の感さえあったが、ここにきて前述の「SO・LO・MO」をキーワードに巻き返しを図っている。ここでは、イーベイの事例をあげ、「SO・LO・MO」の実践に迫ってみたい。

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