アマゾンに負けるな! イーベイに見る米国ネット通販ルネッサンス(4/4 ページ)

» 2011年07月22日 08時00分 公開
[石塚しのぶ,INSIGHT NOW!]
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イーベイが実践するMO(モバイル)

 いつでもどこでも携帯でき、多機能、かつ極めて私的なデバイス(スマートフォン)の急速な普及のおかげで、次世代の売り方/買い方の新境地が拓かれてきている。

 注目の焦点はアプリだ。お気に入りのWebサイトや店舗を自分の携帯の中に取り込むアプリは、ドラえもんのどこでもドアが現実世界に具現化したようなもの。ワンタッチでWebサイトや店舗の中に身を投じることができるばかりではなく、使えば使うほど、それが自分仕様にカスタマイズされていく。

 イーベイもiPhone、iPad、アンドロイド、ブラックベリーなど、多様なスマートフォンに対応するショッピング・アプリを展開している。ホーム画面をオープンすると、「今、ウォッチしているもの」「今、最高値で入札しているもの」「落札したもの」「売ったもの」「まだ売れていないもの」など、自分の取引履歴が一覧できるようになっている。まさしく、自分専用のイーベイ・ストアが手のひらの中にあるような感じだ。

 私自身もアマゾンのiPadアプリ「ウィンドウショップ」を利用したことがあるが、蓄積された情報をベースに、アマゾンの広大な市場(いちば)の中を欲しいモノから欲しいモノへとすいすいと飛ぶような感覚には驚いた。あまりにもスムーズにモノが買えてしまうので怖くさえある。

 Webという広大なスペースの中から、自分のニーズに見合った情報を探し当てる。ネットの普及が始まった1990年代半ばから2000年にかけては、開拓者たちが未踏の地をさまようように、Webをブラウズすることに醍醐味があった。しかし、ネットというインフラが当たり前となった今では、「何かを探してWeb上をさまよう」という行為には、生活者はとりたて興味を感じなくなっている。

 むしろ、目的がきちんと定まっている買い物であれば、Webをブラウズして時間を無駄にするよりは、信頼できる供給者のもとに直行してさっさと用を済ませたいと多くの人は思っているのだ。そこで登場したのが、ウィジェット(ガジェット)やアプリというツールである。

 iPhoneやiPad、またはアンドロイド対応のアプリ・ユーザーは何を求めているのか。1つには便宜性。イーベイの話題からは遠ざかるが、米国最大のドラッグストア・チェーンであるウォルグリーンが提供しているもので、処方薬を再発注するためのアプリがある。処方薬の容器に貼ってあるバーコードをスキャンして最寄りの店舗にオーダーを入れ、ピックアップできるという手軽さだ。従来型のプロセスでは「薬局に行き→薬剤師に処方せんを提示し→調合が終わるまで待つ」という手間があったが、その手間を除いてくれるこのアプリは、2010年の11月に市場導入されて以来、大いに人気を博している。

 また、昨今では、便宜性より何より、iPadを筆頭とするタブレットPCのヴィヴィッドなビジュアルや音にこだわったアプリが登場し生活者を魅了している。ラルフ・ローレンのスポーツ・ウェア・ブランド「ラルフローレンRLX」のiPadアプリは、ファッション・ブランドの中でも群を抜いたクリエイティビティで、「ラルフ・ローレン」という「クラシカル」なブランドに新しい生命を吹き込み、生活者を振り向かせることに成功した(もちろんデザイン性に優れたアプリを作れば売れるというわけではなく、前提条件としてモノやサービスが優れていることは言うまでもない)。

 SO・LO・MOは今日の生活者のライフスタイルを象徴する重要なキーワードだが、企業が新しい売り方を考える上で着目すべき傾向はほかにもたくさんある。2000年前後に、ネット上で売り手と買い手の出会いの場を創造する役割として「マーケット・メーカー(市場の創造者)」という言葉が登場したが、これからの流通業は、生活者のライフスタイルの変化や、そこから生まれる要求を絶えずウォッチして、それに応える術を供給側に提供していく「マーケット・メーカー」であらねばならない。今回、イーベイの事例を通して改めて確信を新たにした。(石塚しのぶ)

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