地中熱システムで、空調22度でも15%節電を――リチャード・A・ゴードンさん嶋田淑之の「リーダーは眠らない」(1/4 ページ)

» 2011年07月01日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

嶋田淑之の「リーダーは眠らない」とは?

 技術革新のスピードが上がり、経済のグローバル化も進む中、日夜、自らの組織のために粉骨砕身するリーダーたち。彼らはどんな思いを抱き、どんなことに注目して、事業を運営しているのでしょうか。「リーダーは眠らない」では、さまざまな企業や団体のトップに登場していただき、業界の“今”を語ってもらいます。

 インタビュアーは戦略経営に詳しい嶋田淑之氏。徹底した聞き取りを通して、リーダーの心の内に鋭く迫ります。


 本日(7月1日)、東京電力・東北電力管内での「ピーク時15%節電」が開始された。先週掲載した省電舎の川上光一社長の記事でも指摘したように、大多数の企業は事業所の室温を28〜30度に設定し、かつ建物周辺の照明を極力落とすという、就業環境悪化を前提とした“我慢の節電”で今夏を乗り切ろうとしている。

 しかし、日本の産業界のこうした対応に大きな疑問を呈し、日本経済のため、そして何より働く人々のために、「1日も早く世界的に普及している技術を日本でも積極導入すべきだ」と主張する人物がいる。リチャード・A・ゴードンさん(69歳)だ。

 リチャードさんは過去40年間にわたって、米国陸軍・海軍・空軍・海兵隊や米国政府諸機関、米国各地の大学を主要顧客として活動。フォーシーズンズ・ホテルやハイアット・リージェンシー・ホテル、ABCストアなどで実績を残してきた、米国を代表する省エネルギー・コンサルタントの1人である。

 現在、省エネルギーのコンサルティング会社「GAI」の代表取締役兼P.E.(登録専門技術者)として、オレゴン州コーヴァリス市を拠点に、米国全土で東奔西走の日々を送っている。

 彼が推奨する「世界的に普及している技術」とは、一体何なのか? 米国上院のダニエル・イノウエ議員率いる東北地方震災復興支援のための米国使節団(100人弱、5月末〜6月上旬)の一員として来日中だったリチャードさんにお話をうかがった。

省エネルギーコンサルタントのリチャード・A・ゴードンさん

室温21〜22度設定でも15%節電は容易に実現できる

 「オフィス・店舗であれ一般家庭であれ、夏のピーク時には電力需要の約50%が、空調関係で占められることになります。従って、空調に使用される電力を効果的・効率的に節減することで、ピーク時15%節電は容易に実現できます。

 問題は、そのやり方です。欧米諸国では従来通りの温度設定を維持し、中で生活している人々の環境を快適に保ったまま節電を行いますが、日本ではオフィスや店舗での温度設定を28〜30度にするなど、就業/居住環境の悪化を前提にした節電を強行します。

 その差は何に起因するか? それは、欧米ではGeoExchange(日本では一般に『地中熱利用ヒートポンプシステム』と呼ばれる)が普及しているのに対し、日本では、それがほとんど普及していないということに尽きると思います」

 確かに日本では地中熱利用ヒートポンプシステムと聞いてもピンと来る人はほとんどいないし、それどころか「地熱発電のことか」と早合点する人も多いだろう。では、地中熱利用ヒートポンプシステムとは、簡単に説明するとどういうものなのだろうか? 

 「従来広く使われてきたエアコンとの違いを明確にすることで、お分かりいただけると思います。エアコンは空気を熱源としています。夏は室内の熱を奪って屋外に放出し、逆に冬は、冷たい外気を圧縮して一定温度にまで引き上げて室内に放出するという原理になっていますよね。

 それに対して地中熱利用ヒートポンプシステムは、温度が年中ほぼ一定に保たれている地中の熱(17度前後)を利用します。夏は、相対的に低温の地中の熱を取り出して一定温度で室内に放出して冷房し、冬は相対的に高温の地中の熱を取り出して、やはり一定温度にして室内に放出して暖房するのです」

 では、どのようにして地中の熱を取り出しているのか。

 「一般的には100メートルほどの穴を掘削し、そこに直径2.5センチメートルほどのパイプを入れて水や不凍液を注入し、地上との間で循環させます。それを通じて地中の熱を取り出し、夏は室内の冷房に用い、室内の熱気は地中に放出します。冬はその逆ですね。

 水の使用量は120〜150リットルほどです。また、近くに海や湖沼、河川、あるいは豊富な地下水があって、それを利用できる場合にはその水を使うという方法があります」

地中熱利用ヒートポンプシステムの仕組み(出典:ウェルダン)
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