地中熱システムで、空調22度でも15%節電を――リチャード・A・ゴードンさん嶋田淑之の「リーダーは眠らない」(3/4 ページ)

» 2011年07月01日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

日本で地中熱利用ヒートポンプシステムが普及しにくい本当の理由

 先週掲載した記事で省電舎の川上社長も指摘していたが、今後数年は日本の産業界にとって、節電は大きなテーマであり続けるであろう。

 それを考えるならば、地中熱利用ヒートポンプシステムの本格導入は、早急に取り組むべき課題の1つとなるだろう。しかしそのためには、なぜ今までこのシステムがまったく普及しなかったのか、その根本要因を探り出し、手を打っていく必要があるだろう。

 確かに地中熱利用ヒートポンプシステムは、エアコンなどと比較すれば、設備投資に手間も費用もかかるかもしれない。しかし、こうしたESCO事業※というのは、そのビジネス・モデルから言って、本来、受益者は省エネルギー実現に伴って削減されたコストの中から費用を払っていけばいいわけで、初期投資で重い経済的負担が発生することはない。普及しなかった本当の理由は、経済的な問題ではないだろう。

※ESCO事業……Energy Service Companyの略。地球環境保護を目的に、顧客の省エネルギーを推進するビジネスで、その費用を、顧客(受益者)が省エネルギー実現による削減コストの中から支払っていく点に特徴がある。

 地中熱利用ヒートポンプ・システムがこれまで日本で普及しなかった背景に、私は日本と欧米の労働観の差異が存在すると考えている。

 日本では「やる気と根性さえあれば、どんな苛酷な状況下にあっても仕事はできる。それがプロというものであり、戦後復興の厳しい時期も先人たちはそうやって乗り越えてきたのだ」という考え方が今でも根強い。

 そのためバブル経済崩壊後、欧米の成功企業が「最高の人材」×「最高の環境」=「最高の成果」というセオリーに沿って業績を伸ばしていくのを横目で見ながらもそれを認めようとせず、「最高の人材」×「劣った環境」=「イマイチな成果」を繰り返して、多くの日本企業は、どんどん世界から遅れを取っていった。

 このことは1980年代にスウェーデンで発祥し、米国で発展したコンファレンス・ビジネスの日本での受容過程に明確に現われており、2008年の私の取材記事で確認することができる。

 →極上の会議&研修体験、請け負います――コンファレンスコーディネーター・田中慎吾氏(前編)

 →米国と日本、会議に対する意識の違いは――コンファレンスコーディネーター・田中慎吾氏(後編)

 このコンファレンス・ビジネスとまったく同じく、1980年代に発展し、米国とスウェーデンがリードする地中熱利用ヒートポンプシステムに関しても、日本の産業界に根強く残る上記のような労働環境軽視の風潮が、日本での普及を遅らせたと言うべきであろう。

 今夏の室温28〜30度設定による“我慢の節電”の強行などは、その象徴的な事例である。

日本と欧米の人間観の差異を克服できるかどうかがポイント

 しかし実を言えば、日本が抱える問題はこうした労働環境に関する独特の価値観だけではない。さらに、その根本には日本独特の人間観があると私は見ている。

 米国での地中熱利用ヒートポンプシステム普及に関して非常に印象的なことは、低所得者用集合住宅への導入事例が多いことだ。電気料金の大幅な節減を実現することで、経済的に恵まれない人々でも、暑い夏や寒い冬に人間的な快適な環境で生活することを可能にしている。

 一方、日本においては、奈良県のように生活保護世帯へのエアコン設置が認められていない自治体もあることからも明らかなように、経済的に恵まれない人々は、快適な生活どころか健康を損ないかねない苛酷な状況に置かれているケースが少なくない。

 そして、これと同じことが企業などの現場で働く人々の身にも広く起きているのだ。日本では「大の虫を生かすために、小の虫を殺す」という価値観が古来存在してきたが、それは今も変わらないのだろう。

 日本の資本主義を最前線で下支えしている人々を軽んじ、粗末に扱うこうした人間観は、人心を疲弊させ、中長期的に見れば、経済的な復興・発展を遅らせることになり、結局は「大の虫」にもマイナスに作用するはずだ。まずはそうした価値観からの脱却を目指し、自らの意識を変えていくことが必要なのではないだろうか?

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