北京大副学長が語る、中国発展4つのポイント(5/5 ページ)

» 2009年12月01日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
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政権の正しいリーダーシップ

中華人民共和国中央人民政府公式Webサイト

 強調したいポイントの4つ目は、改革開放政策を進めるに当たって政権が正しいリーダーシップをとったことです。

 この60年間、中国で政権を握っているのは中国共産党です。中国共産党は改革解放を維持し、経済を発展させる中でリーダーの役割を担ってきました。もちろん、欧米の資本主義国家からは、中国のような社会主義国家に対して批判する声もあります。しかし、中国は30年もの間、経済成長し続けてきました。たった2〜3年ではなく、30年も経済成長し続けてきたことで、欧米の資本主義国家からも見直しの動きが出ており、参考にしたいという声もあります。

 中国の開放政策はなかなか進みませんが、中国政府としては国民の利益を最重視していて、少しずつ経験を積みながら、漸進的に道を踏み出していきたいと思っています。もちろん、中国政府が汚職の問題や民族間の争いの問題など、たくさんの課題を抱えていることを否定することはできません。しかし、世界中のどんな国にも問題は存在しています。中国はそういった問題をすべて見ていって、漸進的な考え方で解決していきたいと思っています。

 中国共産党も1つの大きな体制です。その体制もより良くしなければならないのですが、その過程では、「もっと民主化しましょうよ」「共産党の中に選挙制度を取り入れましょうよ」という声も少しずつ取り入れてきましたし、将来的にはさらに改善できると思います。

 1978年に中国共産党では評価の仕組みが変化しました。「国民の利益にかなっているか」が重要になったのです。「たとえ出発点は正しいことであっても、国民の利益にかなっていないなら、必ず改革しなければならない」ということが、改革開放に当たって最も重要な思想となりました。

 中国共産党では5年に1回開催される中国共産党全国代表大会(党大会)で経済に関しての政策もかなり打ち出しています。毎回必ず重要な政策を打ち出しているのですが、1977年の第11回大会以来、計6回のビジョンを出しています。

 第12回大会(1982年)では、計画経済の中に市場経済を補助として取り入れるという政策を打ち出しました。市場経済政策を打ち出したのは初めてです。当時は市場経済と言ったら、さまざまな批判をされた、という覚えがあります。今の中国の市場経済の規模はまだ満足ではないと思う人もいるかもしれませんが、当時から見るとものすごく先進的な方法なのです。

 第13回大会(1987年)では、計画経済と市場経済を同じぐらいの重要度で一緒に推進していくという体制を打ち出しました。どちらが中心で、どちらが補助というような概念がなくなったのです。

 第14回大会(1992年)では、社会主義市場経済体制※を打ち出し、それを確立することが共産党とすべての国民共通の意識となりました。

※社会主義市場経済体制……市場経済を通じて社会主義を実現し、経済の活性化を図るという体制のこと。

 第15回大会(1997年)では、非公有制経済を社会主義市場経済体制の核にすえました。

 第16回大会(2002年)では、“2つの動かない政策”を打ち出しました。1つは公有制経済を発展させることを動かさないということ、もう1つは非公有制経済を発展させることを動かさないということです。社会主義市場経済体制が打ち出されてからの10年で、非公有制経済が社会主義の中でどういう位置付けになったのかが分かるでしょう。

 第17回大会(2007年)では、経済成長だけを考えるというやり方を放棄しました。経済や政治、文化や社会、環境などを協調的に発展させる戦略を採用しています。

 これらが直近30年間の6回の党大会で決めたことです。安定した政権がこうした政策を打ち出したことで、経済は発展してきたと考えています。

次の60年に向けて

 今年はちょうど中華人民共和国の建国60周年に当たります。そして、これからの新たな60年間でどのように成長していくのか議論されていますが、これまでと同じように2つの30年間に分けて、最初の30年間とその後の30年間で、さらに中国の特徴ある経済体制を作っていこうと考えています。

 これから発展していくうちに、去年の金融危機のような混乱にも直面するでしょう。社会主義体制のもとで、こうした混乱をどう乗り越えて進んでいけるかが今後の課題です。金融危機下でも、中国は13億人の人々の生活を安定させています。中国の社会主義体制は成功していると言えるでしょう。

 今回の金融危機は、資本主義社会に対しては逆風にもなっています。中国では政府がさまざまな調整をしているのですが、その点について海外からは肯定的な評価もされています。中国政府は金融危機の時だけでなく、普段から政府が前面に出て調整するような姿勢をとっています。

 金融危機に対して、市場経済の機能だけで対処しようとすると、13億人がいるような大国では問題を解決できないかもしれません。もちろん、政府がどれだけ干渉するべきかという問題も、時間をかけて解決しないといけない面もありますが。

 現在、中国では局地的にしか経済は発展しておらず、資源エネルギーの消費も過大になっており、環境問題も悪化しています。さまざまな問題を解決するため、知恵を絞って戦略を調整していかなければなりません。

 中国のGDPがこれからさらに増加していくと、資源エネルギーが足りなくなってしまう可能性があります。これから私たちが考えないといけないのは、石炭や石油などの枯渇性エネルギーを、風力や太陽光、水力などの新しい再生可能エネルギーにどう変えていくかということです。日本も環境問題に対してはかなり力を注いでいて、成功していると私は聞いています。中国でも資源エネルギー問題への対応を国家戦略として掲げています。

 日本経済が発展する中で問題が出てきた時には、日本なりの方法で解決してきました。中国でも同様に、中国なりの方法で解決していけるかどうかが大事だと思っています。経済や環境などの問題に対して、海外の経験を参考にしながら進んでいきたいと思いますが、これからの30年はいかに中国なりのモデルを打ち出していけるかが大事だと思っています。

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