張 強調したいポイントの2つ目は、私たちが制度を変更するに当たって、漸進的に改革をしてきたということです。「中国は大きい船だ」とよく言われます。大きい船だと、急いで舵を切り替えると沈没してしまう可能性があります。
トウ(登にこざとへん)小平氏は「近代国家を建設するためには、中国の現実を見てから出発しないといけない。外国の経験は大いに参考にするべきだが、そのまま模倣しても成功することはできない。マルクス主義を中国の現実に照らし合わせて、中国独自の社会主義政策を進めることが重要だ」と語りました。
20世紀、西洋では旧ソ連の体制変更という大きな出来事がありました。旧ソ連は計画経済から市場経済に移行するに当たって、急進的な方式を選択しました。米国が旧ソ連にさまざまな提案をしたり、旧ソ連から西洋などに留学した学者の意見を聞いたりした結果、急進的な改革を選択することになったのです。
米国の提案した内容には、キーワードが3つありました。計画経済から市場経済に移行するに当たって、「いち早く私有制を導入しないといけない」「いち早く価格を自由化しないといけない」「政府の役割を最小限にしないといけない」といったことです。こうした米国方式を導入することで、なるべく早く体制を固めていって、できる限り早く長期的に安定した成長が実現できるようにしたいということでした。
私もロシアには短期的に滞在していたことがあって、いくつかの研究をしました。しかし、当時のロシアでは、「市場経済とはいったいどういうことなのか」ということをほとんど誰も知らないうちにさまざまな改革を行っていたのです。
価格を自由化すると、生産効率やコスト、利益を追求することになります。改革をできるだけ早くやろうとはみんな考えていたのですが、当時の多くの労働者は公有企業に勤め、多くの農民は集団農場(コルホーズ)の中で働いていたため、どのくらいの商品をどういう仕組みで作って、どのように売ればいいのかが分からなかったのです。そのため、経済は混乱してしまい、当時から10数年経った現在でも、結局まだ良い方向には進んでいません。
その経験を踏まえて、中国の改革では旧ソ連とは違い、できる限り漸進的な方法を採るようにしています。最初からすべての分野で市場経済の仕組みを取り入れることはせず、一部分しか開放しないようにして経済を調整しています。同時に、古い体制もある程度はそのままにしています。中国政府の役割も大きなままにしており、去年の世界金融危機を思い出していただくと分かると思うのですが、その中では中国政府もある程度の役割を果たしました。
農村と都市の格差の改革や資源問題などについても、中国ではこうした漸進的な方法で解決していきたいと思います。中国には13億人の人口がいるので、漸進的にやらないとすぐに失敗してしまう可能性があるのです。中国はほかの国の経済の経験を参考にはしていますが、同じ問題でも同じ方法で解決できるとは限らないので、自ら考えて中国独自の道を歩まなければならないと思います。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング