“ネットと政治”を考える(前編)――オバマにできたことが、なぜ日本の公職選挙法ではできないのか?(1/6 ページ)

» 2009年05月01日 13時50分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

 アジャイルメディア・ネットワークは4月24日、東京・千代田区のデジタルハリウッド東京本校で「インターネットが選挙を変える? 〜 Internet CHANGEs election 〜」を開催した。日本では少なくともこの9月までに衆議院議員選挙が行われるが、イベントではネットが政治にどう参加できるのかについてさまざまな分野の専門家が知見を語った。

 イベントは2部構成。第1部「米国事例紹介と日本の公職選挙法の解説」では『オバマ現象のからくり』を執筆した田中慎一氏がオバマ現象を分析したほか、政策シンクタンク「構想日本」の伊藤伸氏が日本の公職選挙法の問題点を解説、第2部「パネルディスカッション」では国会議員の河野太郎氏や鈴木寛氏らが参加したシンポジウムが行われた。前編では第1部の模様を詳しくお伝えする。

“共感のコミュニケーション”へのパラダイムシフト

 まず登壇したのは、PR会社のフライシュマンヒラード・ジャパンでCEOを務める田中慎一氏。ネットの活用によって米国大統領選挙を勝ち抜いたバラク・オバマ氏の戦略を解説した。

フライシュマンヒラード・ジャパンの田中慎一CEO

田中 2月に『オバマ現象のからくり』という本を発売しました。私たちの米国の100%子会社がオバマの選挙戦略を担当して、さまざまな事実関係を入手できたことから、この本を書きました。しかしそれだけではなく、「オバマが従来のコミュニケーションのあり方を変えているのではないか」ということで(オバマ現象に)関心を持つようになりました。

 従来のコミュニケーションとは何か。今、グローバルな世界で支配的なコミュニケーションのあり方は“説得型コミュニケーション”という方法です。欧米流のコミュニケーションはルーツをたどると、アリストテレスの『弁論術』から始まります。『弁論術』は基本的にはディベートで、相手と自分との対立をある程度前提にしています。「こちらが是で相手が否。いかに相手を説得するか」という手法です。それをベースに欧米流のコミュニケーションは体系化され、技術化されています。

 しかし近年、欧米的な説得型コミュニケーションが1つの限界を迎えています。イラク戦争もそうなのですが、「一元的な価値観に基づいた説得」が効かない世界になってきた。それは当然ながら世の中がだんだんと多様性を帯びてきているからです。

 なぜオバマが面白いのか。それは彼のコミュニケーションの中に多様性を受け入れる姿勢が強くあったからです。よく(ジョン・F・)ケネディとオバマが対比されますが、ケネディの時代は簡単でした。要は共産主義か自由主義なんです。「共産主義の脅威を除いた残りの50%は自由主義の支持に回る」という世界でした。

 オバマの(コミュニケーションをとった)世界は違います。宗教が違う、人種も違う、考え方も違う、米国という非常に多様性を持った社会の中で、人々の心を1つにしたのです。多様性はイノベーションの源とも言われますが、分断や対立を醸成する温床でもあります。オバマのコミュニケーションはそれを乗り越えて1つにした。ここで「説得型コミュニケーションから、“共感のコミュニケーション”にパラダイムシフトがあったのではないか」と思います。

 これから日本も多様性に満ちた社会になっていきます。多様性というのは価値観が多様化していくということだけではありません。(ネットの拡大で)世界が情報過多になると、ものを知らないことが当たり前になる世界になります。つまり、情報を消費できるキャパシティと、供給されるキャパシティが圧倒的に違ってくるのです。それが何を意味するかというと、「常識というものがなくなる時代」「共通認識というのがなくなる時代」ということです。それが分断や分裂を生んでいく。ですからこれからの日本も、「多様性とどう向き合って、人々の心を1つにしていくか」が非常に重要になっていきます。

 「なぜオバマが共感のコミュニケーションができたのか」、それはネット(の力のおかげ)です。今日はその共感のコミュニケーションというメカニズムを生んだ、オバマのネットとの関わり合いを簡単に説明させていただきます。

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