“ネットと政治”を考える(前編)――オバマにできたことが、なぜ日本の公職選挙法ではできないのか?(4/6 ページ)

» 2009年05月01日 13時50分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

公職選挙法とは

 「オバマはネットが生み出した大統領」と語った田中氏。しかし、米国でそれほどにまで力を発揮したネットによる発信が、日本では公職選挙法によって制限されている部分が多い。公職選挙法はどういう法律で、具体的にどういう制限があるのか、政策シンクタンク構想日本の伊藤伸氏が解説した。

構想日本の伊藤伸氏

伊藤 先ほど田中さんがオバマ選挙について分析されましたが、多分皆さまは「非常にダイナミックな活動であったな。比べて日本(の選挙)はなぜこんなに盛り上がらないんだろうな」と思われているのではないでしょうか。

 私からは日本の公職選挙法の全体像、そして「ネットと選挙」ということが公職選挙法の中でどう位置付けられているかをお話しします。また、私は現在構想日本に所属しているのですが、もともと国会議員の秘書をしていました。その中で「公職選挙法には、法文に載っていることと実際の運用に乖離(かいり)がある」と感じました。そうした経験も含めてお話しします。

 公職選挙法は約60年前、1950年に制定されました。もともとは「衆議院議員選挙法」「参議院議員選挙法」「地方公共団体の長、および議員の選挙に関する法律」と選挙のレベルに応じて法律があったのですが、バラバラだと非効率だということで一緒にしようということになりました。これは今日の話と少しずれますが、一緒にしてしまっていることの弊害は多くあります。国政選挙と地方議員選挙とではそもそも選挙制度が違います。衆議院議員選挙は小選挙区制度、地方選挙は首長選挙は1人を決める選挙ですし、地方議員選挙は大選挙区制度なので、「選挙制度が違うのに1つの法律で縛っていくのがいいのか」という議論は常に起きています。

 公職選挙法は全部で275条ありますが、これは日本の法律では非常に多い方です。公職選挙法の特徴は、よく「べからず法」と言われるのですが、禁止事項がとても多くあることです。もう1つ、冒頭お話ししたように、公職選挙法は「明確にこの条文に書いてあるからこうだ」と運用されるのではなく、解釈によるものが多くあります。(同様の例が)日本の法律では多いのですが、特に公職選挙法はそういった類が多い。いわゆるグレーゾーンが多数存在している状況です。

 「公職選挙法おかしいな」という話を聞いたことがある人は、多分皆さんの中にもいらっしゃると思います。具体的にどんなものがあるのか例示します。

 1つ目は「選挙期間中以外に選挙運動をしてはいけない」ことです。衆議院議員選挙、参議院議員選挙、地方議員選挙で、基本的に選挙期間(告示・公示日〜投票日前日)が決められています。告示日の前に「選挙名の特定」「候補者名の特定」「その候補者への投票依頼」、この3要素が揃ってしまうと選挙運動とみなされます。「2つだとグレー」「1つだとまあ大丈夫だろう」、というのが一般的な解釈と言われています。

 ただ実際に、例えば皆さんの知り合いが立候補すると決めて、ぜひ周りにも教えたいという時に、「今度の衆議院議員選挙に●●さんが出るんだけどよろしく」と言わないで応援をすることは果たして可能かと(いうと疑問です)。実際にはこれは守られていない、というより守っていない、いかにしてこれを見せないようにするか(が大事です)。私が秘書をやっていた時であれば、「いかにしてはっきりと投票依頼をしないか」ということがよくありました。「1票お願いします」ということではなく、「ただ今、次の衆議院議員選挙を目指して活動していますので、できましたらその活動を支援してください」と政治活動に対しての支援ということにして言っていました。

 2つ目です。選挙期間中に必ず演説会があります。「自分の選挙区に出た人がどういう考え方なのか聞いてみたい」と思う人はいるはずですが、候補者か政党しか主催できない。「第三者が主催することはできない」という法律になっています。もう1つ言えば、昔は選挙管理委員会が立会演説会(複数の候補者が同じ会場で同時刻にやる演説会)を主催することがあったのですが、1983年に廃止されました。「立会演説会に来てみると、それぞれの陣営の支援者ばかりで第三者がいなかったから廃止された」という建前になっています。しかし、実際にはその当時権力のあった大臣が、「立会演説会があると政策能力の高い新人が受かりやすくなる」という危惧を抱いて廃止にしたということです。

 3つ目は「戸別訪問をしてはいけない」ことです。もしかすると皆さんの中にも、候補者がピンポンと押して、「今度、●●選挙に出るのでよろしくお願いします」と来たことがある人がいるかもしれません。一応日本の公職選挙法ではこういう戸別訪問(戸々面接)をしてはいけないということになっていますが、少なくともこういうことを規制している国は(日本のほかに)1つもありません。

 しかし、戸別訪問ができないと、支援者と対話をしていく、支持を広げていくことが非常に難しくなります。そのため、選挙期間の前は「国政報告会」であるとか「●●を考える会」という会をやることにして、会の案内を作って、「その会を案内しにきました」という形で訪問することになっています。それは基本的にはグレーなのですが、大丈夫だと言われています。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.