“ネットと政治”を考える(前編)――オバマにできたことが、なぜ日本の公職選挙法ではできないのか?(3/6 ページ)

» 2009年05月01日 13時50分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

オバマの3つのWebサイト

田中 ここまでは選挙の話をしましたが、オバマは大統領に就任するまでにネットをどういう形で使ってきたかということを簡単にご説明して終わりたいと思います。

 大統領選挙に勝利してからホワイトハウスに入るまでの移行期間に、オバマは「Change.gov」というWebサイトを作りました。従来の「BarackObama.com」が発信中心だったのに対し、今度は大統領に就任する前までに国民の声をどんどん集めようということをしました。

 Change.govには4つの仕掛けがあります。「CITIZEN'S BRIEFING BOOK」ではオバマに対する期待を自由に書き込める。「JOIN THE DISCUSSION」では特定の政策に対してコメントできる。「YOUR SEAT at THE TABLE」ではオバマの行動に対してコメントできる。「OPEN FOR QUESTIONS」ではオバマに対して質問できる。

 すごいのは、それぞれの質問や意見に対して、ここにアクセスした人が投票して、ランキングが付けられるようになっていることです。コメントを書いた人数は、投票した人数の2%くらいです。これは実は非常に重要で、ここにすべての情報を集約することによって、民意をある程度透明化させるという役割を果たしています。

 Change.govは1月末で終了し、次に移行したのが「WhiteHouse.gov」、大統領としての発信です。ここは「コミュニケーションの強化」「透明性の向上」「参画意識を醸成」するために作られたと言われています。

 一言で分析すると「政策プロセスをオープン化する」という仕組みです。これが実際どういう役割をしているかというと、政策プロセスを明確にすればするほど、「こういうことが今問題になっているんだ」「こういうことで政策がこういう風に進んでいるんだな」という共通認識が生まれる。そして、「政策プロセスを公にすることによって信頼感を醸成。最終的には参画意識を確保する」ということが一応狙いになっています。これはまだ完成したモデルではないので、これから皆さんが注目していく部分だと思います。

 大統領選挙を戦ってきたときのBarackObama.com、当選してから就任するまでのChange.gov、就任後のWhiteHouse.gov、この3つを見ていくとオバマのネット戦略がある程度見えてきます。BarackObama.comは発信することが中心、Change.govは受信することが中心、WhiteHouse.govは発信が中心。内容的には共感をコントロールし、参画意識を醸成することが中心だった。

 ここで、オバマの最大の敵は彼に対する期待です。(BarackObama.comで)高まった期待感を、Change.govでクールオフさせた。ある程度コントロールしたら、今度は「(WhiteHouse.govで)発信を強めて、共感から参画意識を醸成する」というシナリオで作られているように見えます。

 ただ、「共通認識を作る」という機能においてはすべて一緒です。オバマのコミュニケーションを見てみると、基本的にまず共通認識を国民と握り、握った上で自分のメッセージを発信していくという態度をとっています。共通認識がないところにメッセージを発信する危険性を回避するため、多様性に満ちた社会に対応したコミュニケーションができるようにWebサイトを設計している。これがある意味1つのオバマ的な方法であり、こういう共通認識を作るに当たってはネットがない限りできなかった。実際に(Webサイトの設計を)担当した人間たちと話したら、「たぶん前回の選挙ではできなかった」と言っていました。

 最後に、よく「民意に従う」「民意を知る」と言われますが、ちょっと誤解を呼ぶ可能性はあるのですが、(オバマは)民意というものは「ある意味作らなければいけないものだ」という発想です。オバマ現象では、サイレントマジョリティあるいは国民という層とオバマが、ネットを通じて一種対話しながら、「Change」という共通認識を徐々に広めていった。「共通認識を広めることをまず優先した上で、自分のメッセージを出していく」という方法をとっていました。

 オバマの1つの手法である「共通認識を作る」、ある意味で言うと「民意を作る」という発想はネットがあったからできました。これはある意味、これからの政治とネットの関係が非常に面白くなっていく(端緒の例と言えます)。「政治のオープンソース化」ではありませんが、ネットによって今まで囲い込まれていたさまざまな情報やデータ、いろんなプロセスが公になることによって、国民の中にそれが徐々に浸透し、国民の中からさらにそれに対するレスポンスがあるという中で、徐々に1つの民意、あるいは共通認識が生まれてくるような政治に(今後)なるのではないでしょうか。

 だから、WhiteHouse.govがどういう形で進展していくか見ていくと、今後のネットと政治との関係が分かるのではないでしょうか。今日は「選挙とネット」というだけではなく、「政治とネット」ということを考える場にできればと思います。

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