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アウディ「A5」試乗リポート
アウディ「A5」プロフィール

 かつては日本でもクーペスタイルのクアトロが人気を博したこともあるアウディだが、このところはメインストリームの市場にはクーペモデルを投入することがなかった。もちろん、TTやR8といったスポーツモデルがラインアップされていることは、読者の皆さんもご存じだろうが、中核を成すミドルクラスはセダンとステーションワゴン。そんなアウディが、久々にクーペスタイルの中核モデル「A5」を発表したのは、昨年のジュネーブショーだった。

 そのA5がいよいよ日本でも発表。さっそく試乗させていただいた。

「A5」07

 さて、試乗リポートへと移る前に、簡単にアウディA5のプロフィールを紹介しておこう。

 存在感のある大きなグリルにV字型に開いた精悍なライト、それにリアコンビネーションランプなど、デザインのワンポイントは最近のアウディに共通するもの。しかし、全体のスタイル、特にサイドビューは流れるようなラインを持ち、グラマスなボディの上にスッキリとコンパクトなキャノピーが融合されている。

 前後のオーバーハングが切り詰められ、細やかな造形の美しさも相まって、なるほどフォルクスワーゲングループの中でも、トップクラスのプレミアムカーブランドと位置付けたいメーカーの意図が強く感じられる。

(左)「A5」試乗01 (右)「A5」試乗02

 3.2リッターV6構成のパワートレインは新規設計で、直噴技術と可変バルブリフト機能の奢られた新設計のFS。パワー&トルクは265ps/6500rpm、33.6kgm/3000-5000rpmと実にパワフルだが、何より注目したいのは圧倒的に広いトルクバンドだ。このパワートレインをアウディお得意の縦置き配置でクワトロ化している。

 ちなみにクワトロの設定は前輪40%、後輪60%という非対称な設定で固定されており、四輪駆動の高いスタビリティを持たせつつも、後輪駆動風のナチュラルなハンドリングを狙っているという。

 一方、トランスミッションは6速ティプトロニックAT。一部には日本仕様は8速シーケンシャルモード付きのCVT仕様となるとの情報もあったが、残念なながら今回は見送られたようだ。日本仕様車はティプトロ仕様オンリーのモデル構成で、マニュアルトランスミッションモデルは用意されていない。

(左)6速ティプトロニックAT (右)「A5」試乗03

 足回りはフロント5リンク、リアがトラペゾイダルリンクという、近年のアウディが熟成を続けているマルチリンクの発展系だが、その乗り心地は新システムの設定によって大きく変化する。

 A5は可変舵角ステアリング、パワーアシスト、可変ダンパーとドライブバイワイヤによるアクセル制御、トランスミッションのシフトプログラムなどの設定を同時に変更可能なドライブセレクト機能を持っており、ワンタッチでコンフォートな乗り心地と穏やかなドライブフィール、あるいはスポーティなハンドリングレスポンスと鋭いアクセルピックアップを切り替えることができる。

 各種設定を個別に選び、インディビデュアル、すなわち各個人が好みで設定の組み合わせを選択したドライブモードへと一瞬で切り替えることもできる。もちろん、設定変更は走行中にも可能だ。

 本革シートが標準となるインテリアは、フォルクス・ワーゲングループ内でもラグジュアリー感を強く演出するアウディブランドらしい落ち着き感とスポーティさを併せ持つ。ドライバーを中心にラウンドさせたコンソールは、着座位置から各種インフォメーションを確認しやすいだけでなく、スイッチ類への確実なアクセスが可能だ。

進化した次世代ナビゲーションシステム

 そして今回のモデルで大きく進歩しているのが、MMI(マルチメディアインタフェース)だ。日本向けに新開発されたHDDカーナビゲーションシステムは、ルート検索、操作レスポンスともに良好で、センターコンソールに配置されたジョグダイヤルを駆使したユーザーインタフェース、ドライブインフォメーション機能との密なる統合により、アフターで装着するナビゲーションシステムとは一線を画す機能性と快適さを提供している。

(左)「A5」運転席 (右)MMI(マルチメディアインタフェース)

 特にiPodと組み合わせた際のオーディオ操作は、オリジナルのiPodが持つ操作性をジョグダイヤルに上手に実装しており、見た目には同様の機能を持つBMWのシステムと比べると直感的で扱いやすい。

 iPodの操作はセンターコンソールだけではく、ステアリングに配置されたジョグダイヤルとメータークラスター内のディスプレイの組み合わせでも操作が可能で、ドライビングしながら操作する際にも視線移動が少なくストレスが少ない。

 さて、試乗会はあいにくミゾレ交じりの悪天候。しかも一般道路とあって、パワフルなV6FSIのパワーを堪能というわけにはいかなかったが、しかし、その安定した、しかし俊敏にノーズが反応するハンドリングは十分に楽しむことができた。

 ドライブセレクトをコンフォートに設定すると、可変ステアリングのギア比は低速時と高速時に大きく変化する。低速時、交差点を曲がるような状況では、パワーアシスト量も多く軽くステアリングを動かすだけでスイッと回頭。ややペースが上がってくると、パワーアシストが控えめになるとともに初期反応が抑えられて直進安定が良く感じられるようになる。一方、ダイナミックを選択すれば、アクセル制御がより大胆になる一方、ステアリングはより安定志向でスポーティな設定のまま可変量がやや小さくなる。

(上)iPod接続 (下)「A5」試乗04

 いずれの場合も乗り心地まで変化するのだが、しかしダイナミック時に乗り心地が悪いか? と言うとさにあらず。決してラグジュアリースポーツの域を出ない程度、ワインディングでの車体の反応が感じやすい程度に固められるものの、決してギャップ通過で突き上げ感を感じるほどには固くはならない。あくまで快適性を維持しながらも、しなやかに駆け抜けるに十分な足回りの設定となる。

(左)「A5」試乗05 (右)ドライブセレクト画面

 なおドライブセレクトにはオートという設定もある。その名の通り、アクセルやステアリングの操作、それに速度域などの情報から、各種設定を自動的に変更するモードである。低速で街中を抜ける際と、やや速度を上げて峠を走る際のギャップが大きく、若干の慣れは必要と感じたが、普段はこのモードに固定しておけば、その時々に応じたハンドリングを楽しめるハズ。

 V6FSIは6速ティプトロニックのスムースなシフトプログラムと相まって、回転域を意識させず、どこからでも加速するトルキーさと自然吸気らしいレスポンスの良さが好印象。それでいて高回転まで引っ張っても、まったく澱むことなく回転が上昇していく爽快感も併せ持つ。排気音はおとなしいが、この回転上昇フィールだけでも十分楽しめるのではないだろうか。

 アウディ久々のクーペだが、その乗り味は近年のアウディらしい高級感あふれる快適性を基礎に、スポーティなエッセンスを加えたもの。しかし、純粋に走りを求めるのではなく、あくまで快適性にプラスアルファで走る楽しさ、雰囲気を味わいたい向きにはピッタリという印象。ライバルとしては、BMWよりもメルセデスCLKの方がしっくりと来る。さらにスポーティさをという向きには、今回は試乗車が間に合わなかったS5に期待したい。

本田雅一

テクノロジーを起点に多様な分野の業界、製品に切り込むジャーナリスト。記事執筆、講演の範囲はIT/PC/AV製品/カメラ/自動車など多岐に渡る。Webや雑誌などで多数連載を持つほか、日本経済新聞新製品コーナー評価委員、HiViベストバイ選考委員などをつとめる。専門誌以外にも、週刊東洋経済にて不定期に業界観測記事を執筆。現在の愛車はブルーのGOLF R32。