換言すれば、つかまえやすい人、取材しやすい人、差し障りのないコメントを言ってくれる関係者に偏ってしまうのだ。特に、民放テレビではこの傾向が顕著。各社のニュース番組で円高に関する情報が流される際、同じような市場関係者があちこちのチャンネルで登場するのはこういう事情があるわけだ。
同じような取材先がありきたりのコメントを提供することから、「今回の円高で、自動車産業は数千億円規模の利益を失う」とパターン化された情報ばかりが視聴者に届けられることになる。同様に、円高メリットとして、韓国を旅行する主婦が大量の化粧品を購入して満足している、といった具合だ。
こうした報道は、極論すれば“ヒナガタ原稿”があれば十分なのだ。つまり、日付とレートの部分が空欄になった穴空き原稿を事前に用意し、お馴染みの取材先と話すだけ、多少の能力さえあれば、小学生でも取材できる話なのだ。
民放の多くは、経済部、あるいは経済担当の記者の人繰りが苦しい。紋切り型のネタが上がってきたデスクの側も、かつての自分の姿を重ね合わせることから、半ば定型化された記事をそのまま通す、という悪循環ができ上がっているわけだ。
「取材したデータを番組に生かしたくとも、小難しい解説記事を展開すると視聴率が落ちる」「分かりやすい画面を用意しないと、視聴者からクレームがくる」――。
民放テレビ関係者と円高関連の話をすると、決まってこんな答えが返ってくる。確かに外為市場の分析は数字が中心となり、事件・事故のニュースと比較した場合、工夫が必要となる。
ただし、だからと言って旧態以前とした紋切り型報道ばかりが溢れていいとは筆者は思わない。また、先に挙げたような“使いやすい関係者”は、財務省や日銀と密接な関係にある金融機関、あるいは系列シンクタンクに所属しているケースが大半だ。
換言すれば、介入などの行動に対し、所管官庁向けに“批判めいた本音”を立場上言えない人がほとんど。筆者のかつての取材先の中には、当局からの抗議、あるいは所管官庁に気を遣う組織内部の人間によって、発言が原因でポスト替えや転職を迫られた向きさえいる。
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