米国でG-SHOCKブームを仕掛けた男、その4つの視点――伊東重典氏G-SHOCK 30TH INTERVIEW(1/4 ページ)

» 2012年11月21日 23時20分 公開
[吉岡綾乃,Business Media 誠]
カシオアメリカ会長兼CEO、伊東重典氏

 それまでの「時計は壊れやすいのが当たり前」という常識を覆し、落としても踏んでも壊れない腕時計として誕生したG-SHOCK。初代G-SHOCK「DW-5000C-1A」がどのように作られたのか、その開発秘話については、別記事「30年経った今だから話せる、初代G-SHOCK開発秘話――エンジニア・伊部菊雄さん」に書いた通りだ。

 初代G-SHOCKが発売されたのは、1983年4月のこと。1990年台にG-SHOCKブームが起きるまで、実はG-SHOCKは日本でそれほど売れていなかった。先に人気が出たのは米国で、「米国で人気があるG-SHOCK」という触れ込みで、いわば人気を逆輸入する形でG-SHOCKブームが起きたのである。

 日本人が思う以上に、米国でG-SHOCKは人気がある。映画『スピード』で主演のキアヌ・リーブスが着けていたG-SHOCK「DW-5600C-1V」は彼の私物だし(その後、DW-5600C-1Vは「スピードモデル」として人気が出た)、エミネム、カニエ・ウェスト、ジャスティン・ビーバーといったスーパースターもG-SHOCK愛好家として知られている。今年の11月にはニューヨークのSOHOエリアに、G-SHOCKだけを販売する「G-SHOCK STORE」もオープン予定だ。

 当時日本でも売れていなかったG-SHOCKを米国で仕掛け、ヒット商品に育てあげたのが、現在カシオアメリカ会長兼社長の伊東重典氏である。G-SHOCKというブランドはどのように作られたのか? 「SHOCK THE WORLD 2012」(参照記事)の取材でニューヨークを訪れたときに伊東氏にお会いし、詳しく語っていただいた。(聞き手、吉岡綾乃)

米国では6900がG-SHOCKの"オリジン"

――こちら(ニューヨーク)に来て印象的だったのが、「腕時計をしている人が多いなあ」ということでした。しかも、大きくて丸いフェイスの、デザイン的にも目立つ腕時計をしている人が多いと思ったんです。伊東さんは長らく米国で時計を扱ってきたわけですが、実際、米国で売れている時計というのは、日本と大分傾向が違うのでしょうか?

伊東 その感想は大体合ってますね。確かに、こちらの人が好む腕時計は、日本とはだいぶ違います。日本だとG-SHOCKといえば5000や5600あたり※を思い浮かべる人が多いでしょうが、米国では5600は売れない。こっちの人には小さすぎるんですよ。「オリジンよりもカッコイイ方がいい」と言われて、圧倒的に6900が売れてます。「米国では6900がG-SHOCKのオリジン」と言っていいくらい。

※5000とは、初代G-SHOCK「DW-5000C-1A」の流れを汲むモデル、5600とはいわゆるスピードモデルの総称。いずれも初代G-SHOCKと同じく、小ぶりなスクエアフェイスのモデルで、G-SHOCKの起源・原点という意味で「Origin(オリジン)」という通称がある。

――日本人は、すごく高機能だとか、すごく正確とか、そういうモノが好きですよね。時計だと例えば、電波時計なんかは高くても売れています。

伊東 それが、ハイテク系はこっちじゃウケないんですよ(苦笑)。僕も「Solar Atomic※※」とか「Self adjusting※※」とか頑張ってみたんだけど、全然ダメ。「正確な時間なんて興味ないよ」って言われちゃってね。特に、若くて100ドル台のG-SHOCKを買うお客さんなんかには、「そんな機能は要らない、カッコイイ方がいい」と言われてしまうんですね。

※※Solar Atomicは太陽電池とマルチバンド対応時計のこと、Self adjustingは自動時刻合わせのことを指す。
左が「オリジン」こと初代G-SHOCK「DW-5000C-1A」。5000、5600系と言われるモデルはいずれもこのような四角いフェイスが特徴。右が6900の初代モデル「DW-6900H-1」。丸いフェイスの上部に3つ目が並ぶデザインが6900の特徴

――じゃあ、やっぱり売れるのは「オリジン」な6900系ということですか? しかもカッコいいモデル。

伊東 そうですね。実際、6900が米国での起爆剤になりました。4年で12倍の売上になったこともあるんです。

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