大使館も共同運営される時代女神的リーダーシップ(1/4 ページ)

» 2014年01月23日 08時00分 公開
[ジョン・ガーズマ、マイケル・ダントニオ,Business Media 誠]

集中連載「女神的リーダーシップ」について

 本連載は、ジョン・ガーズマ+マイケル・ダントニオ著、書籍『女神的リーダーシップ』(プレジデント社)から一部抜粋、編集しています。

「世界を変えるのは、女性と“女性のように考える”男性である!」

ギリシア神話の女神アテナは、文化文明と芸術工芸の守護神であり、戦いの神としての顔も持つ、武力ではなく知恵によって人々に勝利をもたらす。

世界13カ国、6万4000人を対象にした調査から明らかになった、理想のリーダー像とは? 世界で成功している起業家、リーダーが示す特徴の多くは、思想や宗教、文化に関係なく「誠実」「利他的」「共感力がある」「表現力豊か」「忍耐強い」など、一般に「女性的」といわれる資質であることが浮彫となった。

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大使館も共同運営される時代

 ベルリナー・ザイルファブリークのデービッド・コーラー社長は、全従業員から意見や提案ばかりか苦言まで出してもらっている。これによって批判の矢面に立たされる場合もあるが、全社の知恵を結集することによって多くの実を得ている。リサーチゲートのマディシュとフレンドシュアランスのクンデは、情報や経験の共有をとおして美徳をなす事業を創造した。欧州にこのような起業家精神がみなぎっている事実は、「欧州では税制のせいで創造性の芽がほとんど摘まれている」と考える人々にとって、驚きかもしれない。

 時代遅れの官僚制がイノベーションを妨げているというよくある批判は真理の一面を衝いてはいる。福祉の充実した国では、社会が硬直して機能不全に陥りかねない。しかし政府内部にも、非常に疑い深い人にさえ将来への希望を抱かせるような、協力、長期的な発想、イノベーションが見られる。

 ベルリンには、フェレスフス(デンマーク語で「みんなの家」の意)と呼ばれる複合ビルがあり、そこでは「女神的」理念の極みともいえる手法で外交が展開されている。6棟のモダンな低層ビルからなるフェレスフスには、5カ国(フィンランド、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、アイスランド)の大使館が入居し、スペースや補助スタッフを共有している。大使館員は、共通の理解や目的のために相互に自由に行き来している。

 通りを挟んだ向かいの建物はかつてシリア大使館だったが、現在は落書きだらけで有刺鉄線に囲まれ、フェレスフスとは対照的に見る影もない。

 フェレスフスに入居する北欧5カ国は、当然ながら歴史や伝統も共通点が多い。社会の流動性、経済上の機会、社会全般における女性の地位などの面でも世界の上位につけている。大使館の共同運営によってコストを下げ、政府間で合理的な関係を築いている。わたしたちの取材の窓口となったフィンランド大使館のレオ・リスキは、「フェレスフスがあるおかげで、各国が経済と社会の両面で、格段に足並みを揃えやすくなりました」と語った。「ビジネスも遥かに進めやすくなりました。互いに信頼が生まれますから」。これは、物を売る、旅行する、不動産を購入する、仕事を求めて移民するなど、さまざまな局面に当てはまる。

 大使館を共同運営するアイデアが持ち上がったのは、ベルリンの壁が崩壊して、ドイツの首都がボンからベルリンに移った後である。フェレスフスの建築にあたっては、ガラスを多用したりオープンスペースをいくつも設けたりするなど、透明性を重視したほか、一体感も表現した。5カ国の利害の一致を象徴するために、緑色がかったベルト状の銅板を地上15メートルの高さに張り巡らせ、建物どうしをつないでいる。これは通りからも見え、「ここは相互支援によって成り立つ安全な場所なのだ」という印象を訪問者に与える。

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