映像配信サービスで救われた命女神的リーダーシップ(1/6 ページ)

» 2014年01月17日 08時00分 公開
[ジョン・ガーズマ、マイケル・ダントニオ,Business Media 誠]

集中連載「女神的リーダーシップ」について

 本連載は、ジョン・ガーズマ+マイケル・ダントニオ著、書籍『女神的リーダーシップ』(プレジデント社)から一部抜粋、編集しています。

「世界を変えるのは、女性と“女性のように考える”男性である!」

ギリシア神話の女神アテナは、文化文明と芸術工芸の守護神であり、戦いの神としての顔も持つ、武力ではなく知恵によって人々に勝利をもたらす。

世界13カ国、6万4000人を対象にした調査から明らかになった、理想のリーダー像とは? 世界で成功している起業家、リーダーが示す特徴の多くは、思想や宗教、文化に関係なく「誠実」「利他的」「共感力がある」「表現力豊か」「忍耐強い」など、一般に「女性的」といわれる資質であることが浮彫となった。

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「このサービスのおかげで人命が救われました」

 自分らしく生きたいという願いは洋の東西を問わないし、一定の財産や安心を得た人だけが抱くものでもない。人類の歴史は、より大きな権利や尊厳を手に入れるための長い闘いと見ることができる。このような願いが近年で最も鮮烈に表れたのはアラブの春である。皮切りは2010年末にチュニジアで起きた大規模な反政府運動だった。この運動はやがて1956年以来の自由選挙を勝ち取り、すみやかに他国へも飛び火していった。そして、エジプトとリビアの独裁体制を終焉へと導いた。混乱はモーリタニア、さらにはオマーンへと広がり、独裁者たちにさまざまな改革を迫った。反政府運動は、大勝利こそ少なかったが各地で頻発した。中東全域で抗議行動が燃え上がり、やがて沈静化した。シリアでは反アサド体制派による反乱や暴動が長く続き、政府軍による武力介入を招いた。

 スウェーデンでは毎年、ノーベル賞の発表を機に誰もが国際情勢に思いを馳せる。自由や和平への関心はとりわけ高い。もっとも、次に紹介するバンブーザーという会社の設立者たちは、スマートフォンで撮った動画をウェブ上にライブ・ストリーミングするサービスを開発した際、国際情勢を念頭に置いていたわけではない。ジョナス・ヴィグとマンズ・アドラーが想定していたのはむしろ、子どものサッカーの試合を祖父母に向けて中継するとか、地球の裏側にいる友人に結婚披露宴をライブで伝えるといった用途である。

 確かに、ウェブ上には数々の試合やパーティーのライブ映像がアップされているが、中東で若者たちが独裁体制に立ち向かう姿も伝えられている。若者層が中心となって、報道記者が捉えられなかった暴力や残虐行為を暴露した。シリアの自由化運動に対する武力弾圧の映像を最初に発信したのも、バンブーザーの利用者の1人だった。バンブーザーはいまや、情報流通を統制しようとする抑圧的な政権からサイバー攻撃の標的にされている。この事実こそ、バンブーザーの影響力を何よりも如実に示すものだろう。

 わたしたちはストックホルム中心街の仕事場にヴィグとアドラーを訪ねた。建物のロフト部分のほとんどが彼らの仕事場になっていて、1階にはアジア料理の店が入居しているため、昼時には種々の麺類が手軽に食べられる。数軒先にはヴァイパー・ルームというバーがあり、仕事後に疲れを癒す場となっている。アドラーはもじゃもじゃの赤毛を無造作に伸ばしたむさ苦しい外見をしていて、夕方になってやっと職場に顔を出すようなタイプに見える。ヴィグのほうは、茶色の髪を短く刈り込み、これからビジネス交渉にでも行くのかといった雰囲気だ(わたしたちの取材の数週間後にバンブーザーとAP通信の提携が公になった)。

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