JR東日本の復旧工事がなかなか進まない……なぜ?杉山淳一の時事日想(3/4 ページ)

» 2012年11月02日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

利用者からは納得できない枠組み

 被災路線の復旧予算の枠組み、といえば、三陸における三陸鉄道とJR東日本の被災路線の枠組みが不公平である。鉄道路線に対する災害補助については、本来は鉄道会社が1/2を自己負担し、国と自治体が1/4ずつ補助できる制度がある。

 三陸鉄道はこの制度が適用される。もともと2009年から上下分離を実施し、用地は自治体が保有していたという。復興施策では、これに加えて設備の大半も沿線自治体保有とし、沿線自治体に国が補助をするという枠組みになった。三陸鉄道の負担は大幅に軽減された。

 ところが、JR東日本に対する国の補助はない。理由は、JR東日本が黒字企業だからとのこと。赤字の鉄道への支援策はある。しかし、黒字企業の支援、つまり税金投入は国民の理解を得られない、という大原則に基づく。さらにいうと、JRグループは国鉄時代の24兆円という膨大な赤字を精算して設立された。その精算には国鉄用地の売却などのほか、国庫、つまり税金が投入されている。加えて、たばこ特別税のきっかけが国鉄再建事業団への税金投入であった。だからいまでも喫煙者の多くは禁煙車の増加に苛立ちを覚える。そんな経緯を考えると、もう旧国鉄のJRに税金を入れられない、という考え方もあるだろう。

 ただし、そこまでして黒字企業となったJR東日本は、被災路線を自力で復旧できるかといえば、そこまでの余裕はない。ましてや、被災前から赤字だった路線である。復旧しても赤字になるだろう。そんな路線に投資するなんて酔狂だ。東京駅丸の内駅舎復原はホテル事業に対する投資であった。費用の500億円は利益を生む。被災路線の復旧費用は赤字を増やしてしまう。だけど、鉄道事業の社会的責任はあるから、なんとか赤字の少ないBRTで勘弁してもらえないか、という考え方である。それが黒字企業の正しいあり方であり、このような黒字企業を誕生させた政府には責任がある。

 こんな話も、被災地域の人々にとっては、鉄道事業者と施政者側の理屈であろう。なにしろ、三陸鉄道もJR東日本も、利用者にとっては同じ鉄道である。そもそも同じ国鉄だったし、列車は互いの路線に乗り入れていた。三陸の鉄道は一体であった。それが片方は復旧でき、片方は復旧できない。話を聞いてみると法律が違うという。そんな話を納得できるわけがない。

石巻線女川駅、ありし日の様子

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