JR東日本の復旧工事がなかなか進まない……なぜ?杉山淳一の時事日想(2/4 ページ)

» 2012年11月02日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

被災路線復旧と東京駅復原に矛盾はない

 私が感じた温度差は、JR東日本にもある。JR東日本の東京駅復原工事費用は約500億円と言われている。一方、三陸にはJR東日本の被災路線が残っている。国土交通省の概算によると、三陸地域の山田線の鉄道復旧費用は約200億円、大船渡線は約500億円。気仙沼線は約900億円という。総額で最大1600億円かかる。

 東京駅復原費用の500億円があれば、全ては無理だが、大船渡線は復旧できる。山田線なら復旧してお釣りがくるという金額だ。また、この金額は高台移転・移設を含めた場合の最大費用とのこと。原状回復だけならもっと少ない。最低限の現状復帰なら3線とも復旧できるかもしれない。

 もちろん、復原工事費の計上は震災の前だったし、工事を中止して費用を鉄道復旧に振り向けるなんてことはできない。発注済み工事の違約金もかかるし、そもそも着手した工事は後戻りできないほど進んでいた。その工事も地震で工期が遅れた。500億円のプロジェクトを止めると地域経済に響く。倒産する企業も出る。

 JR東日本にとっても約500億円は大金だ。サイドビジネスに長けているといっても、本業は130円から始まる切符代のかき集めである。そのJR東日本が約500億円を調達できた理由は、丸の内駅舎の空中権を周辺のビル開発事業に売却したからだ。空中権とは、その敷地で建築可能な容積率のうち、未使用な面積を譲渡、獲得できる権利である。

 東京駅の敷地には、本来はもっと大きな駅ビルを建てられる。しかし東京駅丸の内駅舎は復原が前提だから、高層ビルは不要。既定の容積率に基づいて、地上4階以上に建てられたはずの面積は未使用だ。その未使用部分をJR東日本は近隣のビル事業者に売った。周辺のビルはJR東日本から購入した容積率を本来の容積率に積み増しして、既定の容積率を越えて高いビルを建てている。

 500億円も儲(もう)かった。じゃあ何に使おうか、という話なら、東京駅より被災路線の復旧に回してほしいと言える。しかし、この500億円は東京駅復原事業があってはじめて捻出できた。おそらく一括でポンと支払われるものでもない。このお金は被災路線の復旧とは異なる枠組みである。

 そういう理由はもちろん理解している。理解はできるが、被災地でJR東日本の鉄道路線復旧を望む人にとって、東京駅丸の内駅舎復原完成やエキナカ、ステーションホテルオープンのニュースに複雑な感情を抱いたのではないか。

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