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» 2012年09月17日 08時00分 UPDATE

ビジネスノベル新世紀:内容が良いだけじゃダメ、出版界が模索する販促方法とは (1/4)

近年、ビジネス書が小説やイラストの力を使って、実売を伸ばそうとしている傾向がある。しかし、パッケージングで工夫が行われているのはビジネス書に限った話ではない。連載「ビジネスノベル新世紀」最終回では、出版業界の現状について改めて振り返る。

[渡辺聡,Business Media 誠]

渡辺聡(わたなべ・さとし)

神戸大学法学部(行政学・法社会学専攻)卒。NECソフトを経てインターネットビジネスの世界へ。独立後、個人事務所設立を経て、2008年にクロサカタツヤ氏と共同で株式会社企(くわだて)を設立。現同社代表取締役。大手事業会社からインターネット企業までの事業戦略、経営の立て直し、テクノロジー課題の解決、マーケティング全般の見直しなどのコンサルティングサービスを提供している。主な著書・監修に『マーケティング2.0』『アルファブロガー』(ともに翔泳社)など。


 「誠 ビジネスショートショート大賞」をサポートするための連載として掲載している本連載。5回目となる今回は最終回として、これまでの話を素材として、最近の出版トレンドを読み解いてみましょう。

 →「もしドラだけじゃない! “ビジネスノベル”が増えているわけ

 →「ビジネス書+ライトノベル=“ビジネスライトノベル”の誕生

 →「“読みやすい”だけじゃない! ビジネスノベルを知るための7作品

 →「どんな流れで進めればいいの? ビジネスノベルの書き方とは

 結論から書くと、パッケージにこだわったマーケティングは、ビジネス本という限定された世界、さらにはその中でも小説ものというニッチな領域に限定した話と思いきや、意外とそうではないんですよ、という話となります。世の中の大きなニーズのあり方、ニーズに対する製品提示での解き方の変化を反映しているのです。

 ポイントは、連載で何度も形を変えて出てきている、「アイキャッチとプロモーション」「分かりやすいメリットの提示」「取っつきやすさ」の3点になります。

 詳しい動向は後にしますが、出版業界で起きていること、課題になっていることは「部数が出ない」「下手すると作っても赤字になる」の2点に集約されます。前者はともかく、後者については利益が出ないというのは今までのやり方は採用できないということなので、新しいやり方を模索して商品ごと、あるいは企業として黒字を確保するようにできないと、早晩会社がつぶれるという展開が待ち受けていることとなってしまいます。

 全国出版協会の調査データを見ると、データが掲載されている1984年以降、全体的に成長してきた業界が1995年前後をピークに大きく下げていることが分かります。

ah_novel1.jpg 出版物の推定販売額(出典:全国出版協会)

 興味深いのは、音楽業界の販売動向も似た形になっていることで、20年くらいかけて上がって下がってととらえると、「むしろ1990年代は過剰に売れていたと言えるのではないか」と読み取る業界関係者もいます。音楽の場合、1980〜1990年代は、毎年10以上のミリオンセラーがあるくらい、勢いよくCDが売れていました。

 出版業界の中でも、特に雑誌の落ち込みが激しく、実質的な廃刊と言える休刊を宣言した雑誌が数多く存在するのは、周知の通りです。雑誌広告費の削減と合わせて、部数減にとどまらない影響があることから、雑誌依存体制の見直しを図っている出版社も少なくなく、分かりやすいところでは『an・an』『ターザン』などを手掛けるマガジンハウスが単行本重視の方針に切り替えています。会社のアイデンティティである社名に、雑誌メディアへのコミットの意思を埋め込んでいる同社でさえも方針を転換せざるを得ないというのは感慨深いものがあります。

 単行本についてはジャンルによりまちまちなものの、比較的堅調とされているのが新書、文庫本、コミックの分野です。新書も過剰供給気味で店頭在庫が詰まっており維持が難しくなっているとの声は入りますが、相対的にはまだ取り組みやすい分野と言えます。

 稼ぎ頭筆頭のコミックですが、増田弘道氏の記事「出版物の3冊に1冊を占めるけど……危機を迎える日本のマンガ(前編)」では、マンガ雑誌で連載し、それをマンガ単行本として販売し利益を得るという全体プロセスが回らなくなっている傾向を整理しています。

 本稿では深くは触れませんが、デジタル、電子書籍が福音になるかと期待されていましたが、少なくとも現時点では市場の落ち込みをカバーできる状況にはありません。むしろ、フィーチャーフォン(ガラケー)向け市場が落ち込んでスマートフォン市場が十分に立ち上がってないことから、デジタル向けの市場全体も拡大してるとは言い難いところもあります。

 まとめると、分野やパッケージごとの勢いの差はあれど、全体としては市場縮小の減少傾向という結論には変わりません。

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