利用者の7割が男性! オフィスグリコの仕掛け人に聞く嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(1/4 ページ)

» 2012年06月29日 09時19分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

嶋田淑之の「この人に逢いたい!」とは?:

 「こんなことをやりたい!」――夢を実現するために、会社という組織の中で、あるいは個人で奮闘して目標に向かって邁進する人がいる。

 本連載では、戦略経営に詳しい嶋田淑之氏が、仕事を通して夢を実現する人物をクローズアップしてインタビュー。どのようなコンセプトで、どうやって夢を形にしたのか。日々、現場でどのように発想し、どう仕事に取り組んでいるのか――徹底的なインタビューを通して浮き彫りにしていく。


 デスクに向かって集中している時や、会議の席で侃々顎々(かんかんがくがく)の議論を戦わせている時よりも、場所を変えてホッと一服している時の方が、良いアイデアが出やすいというのは、多くの人が経験的に知っていることだ。

 特に、コーヒーを飲んだり、甘いものを食べたり、一定の栄養補給をしたりした時は、アイデアのひらめきはもちろん、ストレスの軽減、リフレッシュなど、さまざまな効果が期待できるもの。

 そのせいだろうか。最近、少なからぬオフィスで“置き菓子”を目にする。ボックスの中に多種多様なお菓子が入っていて、職場の人たちはそれを好きな時に自由に食べることができる。以前であれば、30〜50代の男性社員たちが、就業時間中に職場でお菓子をむしゃむしゃ食べるなど、日本企業では到底想像もできなかったことだが、最近ではそれが日常化しつつあるのだから時代も変わったものだ。

 そこで、今回は、オフィスに置き菓子を広めるという奇想天外なビジネスを企画し、年商41億円のビジネスへと成長させた仕掛け人にお話をうかがうことにした。その人物とは江崎グリコのオフィスグリコ推進部長・相川昌也さん(47)だ。

相川昌也さんとオフィスグリコ。江崎グリコの商品に限らず、年間約200種類のお菓子がローテーションで入れ替えられるという

農産物直売所にヒントを得たビジネスモデル

 まずは、オフィスグリコの基本的なビジネスモデルを確認しよう。

 「リフレッシュボックスという名称の3段の箱に10種類24個のお菓子が入っていて、すべて1個100円にしています。1段目はキャンディやガムなどのリフレッシュできる商品、2段目はおやつや栄養補助食品、3段目は『フレンドベーカリー』や『ビスコ』などの小腹が空いた時のお菓子を入れてあります」

 時間帯による売れ行きの傾向としては、夕方以降になると2段目、3段目がよく出るそうだ。

 1週間に1回ほど、スタッフが職場を訪問し、1段分の商品を新しい商品に入れ替え、3週間で総入れ替えになるようにすることで、“登場感”“ワクワク感”を演出し、情報鮮度の維持を図っている。また、職場訪問の際にリクエスト用紙を回収し、顧客ニーズを絶えず細かく把握して、品揃えに反映するようにもしているという。

リフレッシュボックス三温度タイプ

 「このリフレッシュボックスを基本にして、ほかにアイスクリーム専用の『アイスリフレッシュボックス』、アイスクリーム・飲料の冷凍冷蔵庫がセットになった『リフレッシュボックス三温度タイプ』もあります」

 代金回収については総務部門などに一括請求することは一切せず、利用者個々人の善意に期待しているようだが、それでうまくいくものなのだろうか。

 「料金は、食べた人に自主的に代金箱に入れてもらうようにしており、代金回収率は95%程度となっています。リフレッシュボックスは、20人程度で1台の利用を想定することでボックスへの帰属意識が芽生え、代金の回収率が高くなるのです。また、弊社スタッフが商品を入れ替える姿を見せ、利用者とコミュニケーションをとっていくことが代金の回収率の向上につながっています」

 オフィスグリコでは新人だけではなくベテランのスタッフも、研修の受講が義務付けられている。それは“馴れ”が“我流”につながり、この置き菓子ビジネスを本来のあるべき姿とは違うものにし、代金回収率にも悪影響を及ぼしかねないからだ。

 ちなみにこの代金回収システムは、農村によく見られる無人の農産物直売所からヒントを得たという。置き菓子ということで、日本伝統の富山の置き薬を連想する人が多く、「オフィスグリコも、この富山の置き薬商法を参考にして考案した」と一部で語られてもいるが、相川さんによると「結果的に似たシステムになったのであって、企画段階で参考にしたことはまったくない」そうだ。

       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.