「スポーツと政治は切り離すべき」なんて建前だ――サッカー欧州選手権やロンドン五輪をめぐるゴタゴタ伊吹太歩の世界の歩き方(1/3 ページ)

» 2012年06月14日 11時00分 公開
[伊吹太歩,Business Media 誠]

著者プロフィール:伊吹太歩

世界のカルチャーから政治、エンタメまで幅広く取材し、夕刊紙を中心に週刊誌や月刊誌などで活躍するライター。


 2012年5月19日、欧州のクラブサッカーチームのチャンピオンを決めるUEFAチャンピオンズリーグの決勝が行われた。試合は、英国のチェルシーFCがドイツのFCバイエルン・ミュンヘンをPK戦の末に降し、初優勝を飾った。

 その中継を見てお気づきになった人もいただろう。観客席の最前列には、イスラエル国旗が2つ広げられていた。イスラエルの旗は決勝を戦う選手たちの背景で目立ち、否応なく世界中のサッカーファンの目に届いていた。

 決勝が行われたのはドイツ・ミュンヘンにあるアリアンツアリーナ。そうナチスがユダヤ人を迫害したドイツだ。誰が旗を掲げていたのかは分からないが、ドイツでイスラエルの旗を大々的に広げるのは何らかの意図があるとみられる場合が多い。

 実際、観客が掲げる旗を歴史的または政治的なメッセージだと感じた人は少なくなかった。試合が行われている間、イスラエルをよく思わない多くの人たちがサッカー中継に入り込んだイスラエル国旗に対する苛立ちをさまざまな表現でツイッターに投稿し、ちょっとした騒ぎになった。純粋に嫌悪感を示すものから激しい拒絶、さらにはイスラエル政府のPR作戦に違いないとする意見も飛び交っていた。

 目的はどうであれ、スポーツの世界に政治的メッセージが入り込んだ格好の例だといえる。

政治的な“場外乱闘”は、UEFA EURO 2012でも勃発中

 2012年6月8日に、ウクライナとポーランドの共同開催で始まったサッカー欧州選手権(UEFA EURO 2012=欧州の国別対抗選手権)。こちらでも、政治的な“場外乱闘”が繰り広げられている。

 開催前から欧州各国の政治家たちが、ウクライナに対して大会のボイコットをほのめかしていた。ウクライナ外務省の報道官オレフ・ヴォロシンは4月下旬、ドイツに対する不快感を示すために、「ドイツのような国の政治家たちが、冷戦時代のようなやり方をするなんて」と皮肉たっぷりに語った。

 ことの発端は、「親ロシア」であるウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ大統領が、2010年の大統領選で対決したユリア・ティモシェンコ前首相に対して人権侵害を行っていること。ティモシェンコといえば、2004年のオレンジ革命の立役者で、その美貌と独特の髪型でも世界から注目されるようになった。

 そんなティモシェンコだが、現在は刑務所にいる。首相時代の職権乱用罪で訴追された彼女は、禁錮7年の判決を受けたのだ。そして2012年4月末、ティモシェンコは看守から暴行を受けたとしてハンストを行い、さらに腕や下腹部のあざを撮影した証拠写真も公表した。

 そもそも彼女の有罪判決自体が政治的な思惑だと指摘してきた欧州各国は、ヤヌコビッチ政権に対する口撃を強めた。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、ティモシェンコへの人権侵害を理由にウクライナで行われるEURO 2012へのボイコットを示唆。ドイツはグループリーグ第2試合の対オランダ戦を、ティモシェンコが現在収監されているウクライナ北東部のハルキウで戦うことになっており、政治的にも注目されている。

 それに呼応して、欧州理事会や欧州委員会をはじめ、フランスや英国、ベルギー、オーストリアの首脳などが開会式や試合観戦をボイコットすると表明した。前回大会で優勝したスペインの外相も、同国のチームが決勝に残ったとしても試合には出席しないと明言している。

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