「スポーツと政治は切り離すべき」なんて建前だ――サッカー欧州選手権やロンドン五輪をめぐるゴタゴタ伊吹太歩の世界の歩き方(2/3 ページ)

» 2012年06月14日 11時00分 公開
[伊吹太歩,Business Media 誠]

シリア情勢がロンドン五輪に落とす影

 「スポーツと政治は切り離すべきだ」とは使い古された言葉だが、これはあくまで建前に過ぎず、そんな主張を強調すること自体、ナイーブだ。スポーツは政治的に利用される。自国の国旗を背負った選手同士が勝ち負けをつける以上、当然のことだろう。

 スポーツを政治化するやり方は枚挙に暇がない。逆に政治的な背景を知っているからこそ、対戦の意味合いが深まり、観戦をより楽しめるというものだ。

 世界的なスポーツの祭典であるオリンピックでも、それは顕著だ。最近でいうとシリア。1年以上も軍や反体制派、過激派などが入り乱れた混乱が続き、世界がその行方を注視するシリア情勢にもロンドン五輪が利用されている。

 シリアに関しては、米国や英国といった欧米諸国がバシャル・アサド大統領の退陣を目論んでいる。2012年2月にイエメンのアリ・アブドラ・サレハ大統領を説得して退陣させたときと同じように、最近、欧米諸国はアサド大統領の責任を問わない代わりに退陣するよう提案したが決裂している。

 そこで7月27日からオリンピックを開催する英国が動いた。ロンドン五輪からシリア関係者を締め出す可能性を示唆したのだ。シリアからは、11人の選手と20人の関係者が五輪に参加するためにビザ申請を行っているが、今のところ、入国の許可は下りていない。

 5月27日、テレビ番組に出演した英国のニック・クレッグ副首相は「人権侵害の証拠があると客観的に認められるなら、この国(英国)には入国することはできない」と得意顔で語った。英国民は激しく殺し合いを続けるシリア人が英国に来るのではないかと心配する必要はないとも付け加えた。

 ウィリアム・ハーグ外相も同様の見解をコメントしており、英国は間違いなくスポーツを政治に利用している。一方のシリア・オリンピック委員会は、「ホスト国には五輪を組織する権利しかない」と怒りを露にしている。

イングランド対アルゼンチン戦は領土問題の代理戦争状態

 サッカーに関していえば、例えば、1888年から英国が実効支配している南大西洋の英領フォークランド諸島(アルゼンチン側の呼称はマルビナス諸島)をめぐる英国とアルゼンチンの領有権争いが有名だ。

 この領土問題は、最近またトラブルになっている。2010年2月に英国の石油会社がフォークランド諸島近海で海底油田の試掘を始めたのをきっかけに、両国の争いが再燃。2012年2月には、英国空軍に所属するウィリアム王子が、軍務のためフォークランド諸島に降り立ち、アルゼンチン国内で反英国の大規模デモなどが発生した。

 サッカーのワールドカップなどで英国とアルゼンチンの対戦が決まると必ずこのフォークランド紛争が話題になる。両国サポーターの多くもサッカーの試合を単なるスポーツだとはみておらず、領土問題の代理戦争にも近いライバル意識が漂う。

EURO2012 (写真はイメージです)

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