興行収入ゼロでもいい!? 新聞社が映画出資する理由(3/7 ページ)

» 2011年12月22日 12時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

新聞社として映画に出資する強みとは

 毎日新聞社が初めて出資した映画は『模倣犯』(2002年)で、『源氏物語 千年の謎』(2011年)で24本目になります。『模倣犯』は10億円を超える興行収入で、ほかにも出資の数倍の配当があった映画もありました。

 『レディ・ジョーカー』(2004年)は興行的には残念な結果に終わったのですが、原作を毎日新聞社で出版していたんですね。自社の原作を映画化する体験は初めてだったのですが、原作が20万部くらい追加で売れたので、自社の原作を映画化するのが一番だということに気付きました。これは30年前、角川春樹氏が「読んでから見るか、見てから読むか」というキャッチフレーズで映画を売っていたものを今さら知ったという感じなのですが。

 『あらしのよるに』(2005年)は面白い座組みで、原作は講談社なのですが、小学館が出資していました。小学館と毎日新聞社がフィルムから絵本を作ったのですが、17万部売れて、利益は映画の利益より大きくなりました。こういうところでも、広告以外にも入ってくるものがあるんだとよく分かりました。

 『手紙』(2006年)も原作は毎日新聞社ですし、『犬と私の10の約束』(2008年)は今、ソフトバンクのCMで有名になったコピーライターの澤本嘉光さんに、広告の空き枠に連載小説を書いてもらって、連載後に出版して8万部、アスキー・メディアワークスで文庫化して7万部売れました。『劇場版MAJOR』(2008年)も絵本が8万部売れました。原作でなくても出版すると大きなビジネスになるということで、他社からよほど「出版してほしくない」と言われた映画以外は関連書籍を出版するようになりました。

 ただ、『レディ・ジョーカー』と『手紙』は原作が毎日新聞社なのですが、原作の窓口としての役割は果たしていなかったんですね。当時、そういう発想が新聞社になかったといいますか、新聞広告の何千万円という世界と比べて、窓口手数料は数十万円からとそれほど大きくないので、手間を惜しんでいたんです。

 しかし、手間はあるものの、原作権を握るといろんな情報が入ってくると分かったので、私が正式に事業本部に配属された時、『毎日かあさん』の映像化の窓口を任せてもらいました。

『毎日かあさん』

 『毎日かあさん』のDVDに、原作者の西原理恵子さんに書き下ろしていただいた『毎日かあさん 特別編』という漫画が特典で付いているのですが、その1ページ目が私たちのエピソードです。

 最初、私たちも原作者の代理人という概念が分からなくて、小学館の人にお酒を飲みながら「契約書をどう作るの?」と聞いたら、「そんなの渡せるわけないだろ」と言われたので、「何となくこんなものじゃないか」というものを手探り状態で作って、西原さんのところに行きました。すると、「金になるかならんか分からん人に割く時間はございません」と言われて、「そこを何とか30分だけ」と門をこじ開けて入っていきました。

 お茶も出されずにとくとくと話して、「じゃあお金が入るなら契約してやる」と言われて、「『毎日かあさん』の映画化の権利を1年間おさえるのは数十万円です」と言ったら、やっとお茶が出てきて、「もしこれが本当に映画化されたらいくらになるの?」と聞かれて、「だいたいこれぐらいですかね」と話をしたら、次から時間をとっていただけるようになりました。ただ、結局映画を作るのには5年かかりましたね。

 今ではちゃんと電話にも出ていただけますし、お茶も出していただけますし、先日はちょっとだけおごってもらいましたし、そういう作家さんとの信頼関係ができて良かったと思います。その半面、1からやる怖さや楽しさなど、いろんなものを経験したので、私にとって『毎日かあさん』は一生忘れられない作品になると思います。代理人の仕事では原作者の方を向かないといけないし、映画に出資することになれば今度は映画制作側に立たないといけないので、板挟みな感じの毎日を送ることになるのですが。

 よく酒が入った席で、「宮脇さん、個人で映画出資しますか?」と聞かれることがあります。私は「絶対にしません」と言います。なぜなら私は媒体を持っていないからです。

 よく、「映画はギャンブルだ」と言われますが、本当にギャンブルかどうかというと、僕は多分違うと思っています。それはなぜかというと、個人投資家と違い、毎日新聞社は所有するメディアを使って宣伝できます。それはTBSや小学館もそうですが、出資社が媒体を持っているがゆえに出資をしているということ、出資に対する配当以外の収益があるからこそ続けられるんだということを常日頃話しています。

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