興行収入ゼロでもいい!? 新聞社が映画出資する理由(1/7 ページ)

» 2011年12月22日 12時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

 映画を製作する際のさまざまなリスクを回避するための方式として、生み出された製作委員会方式。近年、その製作委員会に新聞社が参加することが増えており、『日本沈没』のように興行収入53億円という成功を収めた作品も登場。最近では、朝日新聞社の『悪人』、読売新聞社の『八日目の蝉』、毎日新聞社の『毎日かあさん』など新聞連載が映画化されヒットに結びつくケースも見られるようになっている。

 新聞の販売・広告収入を主な収益源としてきた新聞社がなぜ今、映画に出資するようになっているのか。12月10日に公開した『源氏物語 千年の謎』の製作委員会にも参加している毎日新聞社の宮脇祐介事業本部副部長がその流れを解説した。

※この記事は12月14日に行われたデジタルハリウッド大学大学院主催の公開講座「新聞社と映画製作」をまとめたものです。
毎日新聞社事業本部の宮脇祐介副部長

第3の収入を求めた新聞社

宮脇 私は、毎日新聞社の事業本部で、映画出資や版権の管理などに携わっています。新聞社で映画に関わる仕事というのは、学芸部で映画記者として関わる仕事、広告局で映画会社からお金をもらう仕事の2つが知られています。ただ、私の場合は映画の製作委員会に入りプロモーションを手伝って興行成績を上げて、DVDを売って、テレビに放映権を高値で売って、収益を得るというビジネスの方面で関わっています。

 私の経歴をお話しすると、1966年に福岡県北九州市で生まれて、西南学院大学卒業後、1990年に毎日新聞社に入社しました。大学で広告サークルにいたので、広告の仕事をしたいと思っていたのですが、電通とかはコネなどもあって入りづらいという噂だったので、実力で入ろうとすると新聞社の広告局しかなかったのです。

 実力があったかどうかは別として毎日新聞社の広告局に入り、人事部から「1週間研修に行って来い」と言われてから、はや21年です。長い研修と私は言っていますが、まず1994年に広告局で映画広告を担当しました。そのころは映画人口が1億人を切ったと言われる、洋画、邦画問わず非常に苦しい時期でした。そこで4年間、『フォレスト・ガンプ』『アポロ13』『ショーシャンクの空に』といった映画の広告企画を立案しました。

 その後4年間、アサヒビールやキリンビールを中心にビール会社の新聞広告の仕事をして、その次にまた映画の担当になりました。普通は2回やらないと社内ルールで決まっているのですが、「今まで広告で携わった映画に、制作側から関わりたい」という希望が会社に通って、5年前、40歳前後の時に事業本部に行き、出資事業をやることになりました。

 新聞社がなぜ映画事業を始めたのか。2000年前後、朝日新聞社、読売新聞社、毎日新聞社、産経新聞社、日本経済新聞社という中央5紙が映画出資に参入しました。当時、TBS、フジテレビ、日本テレビ、テレビ朝日、テレビ東京といったテレビ局が広告外収入を求めて、映画出資をし始めていて、大きく当たっていた時代です。『踊る大捜査線 THE MOVIE』シリーズ、『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)、『日本沈没』(2006年)などが当たった映画で、2003年くらいから邦画全盛期と言われる時期が始まりました。

 その時、新聞社の発行部数(日本ABC協会調べ)を見ると、2010年までの10年間で400〜500万部減っていました(2000年5370万8281万部→2010年4932万1840部)。これはだいたい、産経新聞と毎日新聞を足したくらいの部数の新聞が日本でとられなくなったということです。同時に新聞広告の売り上げは、2010年までの10年間で何と半分になりました(2000年1兆2000億円→2010年6396億円)。こういう状況下で、新聞社も広告・販売以外の第3の収入を考え始めたということです。

 新聞社ではインターネット収入も伸び悩んでいます。15年前ほど前、インターネットの営業部にいた先輩が「見てみろよ、5年後には広告局の売り上げを抜くよ」と言っていました。確かに業界自体はそういう伸びを示していたのですが、実際はヤフーやグーグルというアクセスのあるところに収益はほとんどとられていて、さらに広告だけではなく物販やダウンロードの比重も大きくなって、新聞社は取り残されました。

 2009年1月の統計でユニークユーザーは毎日jpの947万人に対して、ヤフーは2700万人。経験則でいくと、数が倍違うと、広告料金は多分3〜4倍違うんですね。ネットの広告ビジネスをやったことがないのではっきりとは言えないのですが、ヤフーの広告売上と毎日jpの広告売上がものすごく違うとは言えると思います。ここ15年でインターネット広告売上が十数倍になっても、新聞社のインターネット収入は伸び悩んでいます。

 私がいるのは事業本部ですが、新聞社の事業で一番有名なのは美術展で、毎日新聞社も2012年3月31日からBunkamuraでダ・ヴィンチ展を行います。美術展は新聞社が紙面で伝えていたものを実物で見せるというのが事業の始まりで、歴史が長いです。

 ほかにはスポーツ事業があり、毎日新聞社だと都市対抗野球や春の選抜高校野球大会。そして、将棋の名人戦や囲碁の本因坊戦、アワード(表彰)事業やメセナ事業です。朝日新聞社では住宅展示場のような大型事業なども手がけています。

 美術展やスポーツ大会は仕込みがかなり大変で、美術展では図録の1つから作っていきますし、作品を借りる交渉もあるので、1つの事業に3〜5年かかってしまうため、1人当たりの事業収益は非常に悪いと言われています。美術グループの人は誇りを持って行われているので、そう言うとすごく怒られるのですが。

 一方、映画出資は誰かが作ったものをプロモーションするだけです。今年は5本やりましたが、やろうと思えば1人の担当者で年間3〜5本できます。

 映画では製作委員会に出資した中でどれだけの配当があるのかということ以外に、メディアとしての収入もあるんですね。テレビ局や新聞社、雑誌社やラジオ局なんかは有料出稿という収入があるんです。3億円の作品に1%(300万円)出資しても、それ以上の金額の広告をとれる可能性があるのがテレビや新聞の世界です。広告収入でリスクヘッジできることが分かったといいますか、周辺ビジネスがもうかるのではないかということで始めたのです。実際、読売新聞社の場合は広告局が映画に出資していたりします。

 広告・販売収入、ネット収入が伸び悩む中、新聞社の事業はかなり様変わりしています。「メセナから収益事業へ」とここ5年くらいずっと言われていることなのですが、会社の持ち出しでやってきた事業を少なくして、お金の入ってくる事業に転換するという形で今もいろんな事業が淘汰され、新しい事業がおこっていると想像していただければと思います。

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