くう、ねる、そして――自然写真家、糞土師 伊沢正名さんあなたの隣のプロフェッショナル(5/7 ページ)

» 2010年08月07日 15時10分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

西欧の「糞土師」、フンデルトヴァッサー

フリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサー。1998年、ニュージーランドにて撮影。Creative commons. Some rights reserved. Photo by Hannes Grobe

 糞土師としての伊沢さんの活動は、非常に特異なものとして捉えられがちである。しかし世界に目を向けると、実は同じ視点に立った活動で名を成してきた人物が存在する。

 フリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサー(1928〜2000年、ウィーン芸術アカデミー教授などを歴任)は、独自のエコロジー思想を持ち、絵画・版画・建築の分野で積極的な活動を展開したオーストリアの芸術家である。彼は1973年の時点で、すでに「借家木」というコンセプトを発表している(図2)。これは、人間が日々の生活の中で排せつする糞便をその建物の中で“分解”し、それを利用して建物の屋根で芝生を育て、建物の窓辺では木を育て、人が植物とともに生きるという構想である。

 この構想をより具現化し、1975年には「腐植土トイレ」を発表(図3)。これは、糞便や生ごみの上に腐植土をかけ、それを幾層にも重ね合わせてゆくもので、まさに、排せつ物の分解を促進して栄養分の豊かな土を作り、上記の「借家木」を現実のものにしようという発想であろう。

 1979年には、プフェヒコンで「聖なる排せつ物」宣言を発表。「排せつ物は土となり家の屋根を覆う。排せつ物は芝生となり森となり庭となる。排せつ物は黄金となる。循環は完結し、もはやゴミは存在しない」と。

左が借家木、右が腐植土トイレの概念図

 こうした「生命の循環」という視点を現代都市生活の中に実現しようとしたフンデルトヴァッサーの思いは、1985年、ウィーンの低所得者用市営住宅「フンデルトヴァッサーハウス」に結実した。自らの力で植物を生かし育てる中で、自らもまた成長してゆくというエコロジカルな生活を送ることは、住む人々に大きな誇りと喜びを与え、同住宅の入居競争率は非常に高いと聞く。さしずめフンデルトヴァッサーは、西欧を代表する糞土師ということだろうか。

ウィーンにあるフンデルトヴァッサーハウス。Creative commons. Some rights reserved. Photo by Andrzej Barabasz

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