W杯パブリックビューイングの仕掛け人――イベントコンサルタント・岡星竜美さんあなたの隣のプロフェッショナル(2/4 ページ)

» 2009年12月11日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

ポスト・バブル――キーワードは「マ・イ・ウ・エ・コ+レ」

 「バブルのころまではイベントと言えば大まかに次の4つがありました。

1.オリンピックやサッカーW杯のような世界的イベント

2.展示会や見本市系でこれの国家レベルのものが万国博覧会

3.政府や自治体が行う啓蒙・交流型のイベント

4.新製品発表会のような、企業によるセールスプロモーションのイベント

 これらのうち、1は日本の国際化とともに定着してきましたが、そもそもそんなに頻繁に行われるものではありません。

 バブル崩壊後は2〜4が減少し、特に4の落ち込みが顕著でした。そしてそれに取って代わるように、NPO法人やボランティアによる町おこしやコミュニティ再生などをテーマとする新たなイベント「5.市民創発系イベント」が急速に増えていったのです。こうして、それまでプロのものだったイベントが、アマチュアへと広く開放されていったのです」

 しかし、NPO法人やボランティアによるイベントは概して予算が少なく、プロフェッショナルな人材もいないのでノウハウの蓄積もない。安全性の確保も危うい。だが、岡星さんはそこにプロのイベントプランナーの新しい存在価値があると感じたという。

 「イベントの成功や評価が、集客さえ成功すれば良いという時代は終わり、これからは『マ・イ・ウ・エ・コ+レ』だとも思いました」

 この「マ・イ・ウ・エ・コ+レ」は、岡星さんの解説によれば次のようになる。

 「マ」はマネジメントで、「費用対効果」を追求し、ビジネスとして成立させるということ。「イ」はインフォメーションで、実施側のメッセージが相手にちゃんと伝わるかという情報到達度をきちんと検証するということ。「ウ」はユニバーサルで、老若男女を問わず、あるいはハンディキャップの有無を問わず、誰もが参加しやすい、事故が起こらないための環境作りができているかということ。「エ」はエコロジーで、ハード面で再生可能性を重視したり、カーボンオフセットを導入したりするということ。「コ」はコンプライアンスで、個人情報の管理の徹底など、文字通り法令順守ということだ。

 そして、プラスアルファとしての「レ」はレガシー(遺産)のこと。これは、イベントを通じて得た「誇り」や「体験」といった、いわば「心に残る資産」を以後の活動のベースとして活用できるようにするということだ。

「パブリックビューイング」に見る新しいイベント像とは?

 「バブル崩壊後、ある地方自治体のコンペで『マ・イ・ウ・エ・コ+レ』のコンセプトで勝ったことで自信をつけて、それ以降、企画を考える上でのベースにしています」と岡星さんはほほえむ。

 いかにたくさんのお客さんを集めることができるか、というように定量的に評価されてきたイベントから一転して、質を問われる「マ・イ・ウ・エ・コ+レ」のイベントへ。このコンセプトを通じて、イベントがどう変化したかということを、岡星さんは次のように説明する。

 「一番大きな変化は最後の『レ』(レガシー、遺産)に現れていますが、それまで“仮設性”“聖なる1回性”が特徴だったイベントが、Sustainable(持続可能)な存在=ムーブメントとなったとした点です。それは、2002年日韓共催のサッカーW杯におけるパブリックビューイングでも明確です。

 パブリックビューイングの説明をすると、これは選手がいなくても、そこで試合をやっていなくても、5万人収容の会場に5万人を集めるイベントです。そこで試合をしないと言っても、コストだけは5万人相応分はかかってしまうので、その点がリスクだったのですが、結果的にはちゃんと5万人のお客さんに来ていただいて、試合会場よりも盛り上がりました。

 成功の要因はハッキリしています。W杯のチケットは世界中で販売されるので、観戦や応援のために集おうとする人々は、会場でひとかたまりのグループとなることができません。しかも、ゴールの際に花火を上げるといった派手なパフォーマンスも許されません。

 でも、パブリックビューイングではそれらが全部できるんです。仲間たちと一団となって大声をあげて応援し、得点が入れば花火を上げて大盛り上がりして、お客さんたちは大喜びでした。期間中、パブリックビューイングは5万人×4回=20万人を動員しました。

 しかし、ここで注目すべきことは、パブリックビューイングの体験を通じて参画意識が醸成され、そこに集まった人々の間に関係性ができた点です。換言するならば、イベントを通じて共感・共鳴・共振体験ができることを実感できたということです。

 パブリックビューイングが、それまで日本の若者には希薄だと言われてきた“一体感”や“熱狂的なつながり”などを生み出す文化として認められ、日本に定着したということですね。これこそレガシーではないでしょうか」

日韓W杯パブリックビューイング準備中の1コマ

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