W杯パブリックビューイングの仕掛け人――イベントコンサルタント・岡星竜美さんあなたの隣のプロフェッショナル(4/4 ページ)

» 2009年12月11日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]
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処女作『キラリ開眼物語』の衝撃

『キラリ開眼物語』(文芸社)

 岡星さんは11月に初の単行本『キラリ開眼物語』(文芸社)を出した。サブタイトルは「明日から企画のホープと呼ばれる本」。しかし、これは題名から想像されるようなノウハウ本ではない。小説スタイルで書かれており、そこにイベントのプロフェッショナルとしての岡星さんの思いが込められている。

 「なぜ小説なのかといえば、それは絶望していた自分自身へのLOVEと、イベントに取り組む若い人々へのLOVEが根底にあるからです。これを伝えるために、苦い薬ではなくて、糖衣錠やシロップにして出す感じにしたんです。口当たりは甘美でスイスイ飲めるけど、効き目が抜群みたいな。

 ディズニー映画のように入り口の敷居は低く、でも出口に立った時には1つ高いステージに上がっている、ということを狙っています」

 なるほど。ノウハウ本というスタイルでは、それを実現することは難しい。

 「ノウハウ本だと、Q&Aがその典型ですが、結果しか書かれていません。でも私は、考えるプロセスこそが大切だと思っているんです。プロセスこそが、モノを考える人間にとって一番苦しくて面白いところであり、そこを擬似体験してほしいと思ったのです。

 それにノウハウ本は、それを書いた人にしかできないことが書いてあるのではないか、という問題意識もありまして……。やはり本を出す以上は、アイデアがジャンプする瞬間の苦しさや喜びを語らないといけないのではないかと考えたのです」

 本のタイトルを見た瞬間、これはサザンオールスターズのヒット曲『チャコの海岸物語』をパロっているなと思ったが、本文を読み始めてさらに驚いた。書き出しは川端康成の小説『雪国』の冒頭のパロディ。主要な登場人物の1人、「コンペ侍ハロルド・養田(ヨーダ)」はもちろん映画『スター・ウォーズ』のヨーダのパロディである。同書は全編にわたって、そうしたパロディが満載になっており、読み手の知的好奇心や想像力を刺激してくれる。

 しかし、それ以上に重要なのは物語の展開方法だ。少し読むと、すぐに場面転換が訪れる。しかも、その転換ぶりは非連続で意外性に富んでいる。とはいえ、内的な一貫性は確保されているので、その転換に対して違和感を覚えるどころか、「この先どうなるんだろう?」と思わず次へと読み進めたくなる仕掛けになっている。

 「イベントは時間の芸術です。人間の興味はそう長くは持ちません。だからこそ要所要所で『非連続性+意外性』を用いつつ、同時に“チラリズム”で次の展開を垣間見せて進んでいくことが大切なのです。ロールプレイングゲームをやっているのと同じ感覚と言ってもよいでしょうか」

イノベーターとしての成功要因は「表現者」としての志向性!?

 一読した筆者の印象として、岡星さんのこの著書は、イベント業界の人たちのみならず、私のような文筆家にも、そして一般企業にあってプレゼンテーションをする機会のある方々にとっても学ぶところの多い作品である。

 というのも、岡星さんの本業は言うまでもなくイベントコンサルタントではあるが、彼は、本質的には「表現芸術」のアーティストなのであって、彼にとってイベントは、その表現方法の1つに過ぎないということを痛感するからである。

 誤解を恐れず換言するならば、岡星さんは「イベント」というスタイルにのみ固執しているのでは決してなく、どんなスタイルをとるかは状況次第であって、「表現者」としての普遍的な志向性を持っているということである。

 そうした広い視野に立った普遍性をベースにしているからこそ、イベントのあり方についても、大所高所からのイノベーティブな発想転換が可能になったのではないだろうか。「イノベーターたりうるためには何が必要なのか」という問いに対する1つの明快な解答がここに示されている、というのが筆者の感想である。

 地方の絶望をイベントを通じて希望へと転換していくために日々奮闘する岡星さん。しかし、それは本当に見果てぬ夢なのだろうか? いやいや、存外それが実現する日は早く訪れるのかもしれない。筆者にはそう思えてならない。

嶋田淑之(しまだ ひでゆき)

1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」「43の図表でわかる戦略経営」「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。


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