弘兼憲史氏&青年漫画誌編集長が語る、漫画編集者の仕事とは劇的3時間SHOW(2/5 ページ)

» 2009年10月21日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

編集者の1日

『モーニング』の古川公平編集長

弘兼 編集者の1日はどのようなものなのか。普通の出版社だと9時ぐらいに出社して、17〜18時が定時で仕事が終わるという形なのですが、漫画の編集者だけは13時出社が普通ですね。午前中は寝ていてOKです。13時に出社して、編集会議をやって、16時くらいからそれぞれの仕事に入ります。

古川 なぜ13時かというと、漫画家さんに合わせているからです。漫画家さんは今は朝方になっている人も増えてきましたが、基本的に夕方や夜から起き出して、話を考えてという人が大半です。深夜に仕事をして、寝るのが5〜6時というのが多いので、そうすると編集者も場合によっては付き合わないといけない。『モーニング』編集部でも、0時ぐらいが一番人が多いのではないでしょうか。

弘兼 本当に不夜城ですよね。だから残業の概念もあいまいで、どこまで仕事して、どこから酒を飲んでいるのかがよく分からなかったりする。時々、原稿が遅くあがると、酒臭い編集者が入ってくることもありますが、お酒を飲みながら待っているというケースもありますよね。

古川 どこまでが仕事かという区別が全然ない。そういう意味では土日も基本的にはありません。しかし、ずっとデスクで真面目に仕事をしているのかというと、そういうわけでもない。何時間働いているのかは分かりませんが、待ち時間が多い仕事なので、映画を見たりしているのも仕事ということになりますからね。

弘兼 そのおかげで家庭が崩壊するという話がありますよね。家に帰った時にはみんな寝静まっていて、自分が目覚めた時には誰もいない。だから、同じマンションに住んでいながら、1週間顔を合わせないことはざらにあると言います。

古川 僕の先輩で、朝帰ったら子どもが学校に行くところで、「パパ、今度いつ来るの?」と言われたという有名な話があります(笑)。

吉野 うちは土日しか顔を合わせないので、「また来週」と言われますね。ある編集者が言っていたのですが、あまりにも顔を合わせられないので、業を煮やした奥さんが朝出勤する時に、彼が寝ている上を(足から頭まで)縦に踏んづけていったらしいです。でも、そういうのを乗り切ってみんな頑張っているんですね。

古川 『ビッグコミックオリジナル』で『Dr.コトー診療所』を描いている山田貴敏さんが『週刊少年マガジン』で連載していたころに担当していたのですが、僕が結婚した時、ずっと彼と一緒にネームをやっていて1週間家に帰らなかったことがあります。すると業を煮やした女房が山田さんのところに電話をかけてきて、「うちの亭主帰してもらえますか」と山田さんに言ったという話がありますね。

会社による編集部の違い

弘兼 会社によって編集部にも違いがあって、『モーニング』の編集部員は約40数名、かたや『ビッグコミックオリジナル』編集部は8人です。『モーニング』の編集部員の半分近くは漫画専門の契約プロダクションから来た外部社員です。『ビッグコミックオリジナル』は8人で回しているということなので、それを講談社も参考にしたら少し経費を削減できるんじゃないですか。

古川 ちょっと会社のシステムが違うんです。講談社では編集部内で雑誌も単行本の仕事も全部やるんです。小学館は単行本をやる部門が分かれているので、編集部の人数に差が出るのです。一概にその差だけではないのですが、よく上からは「小学館はこれだけの人数でやれているぞ」と責められはしますね。

吉野 逆にうちは下から「どうして講談社はあんなに人がいるのに、うちはいないの?」と責められます(笑)。

弘兼 一長一短がありますね。僕が見ていて大きく違うと思うのは、講談社は映画業界で例えると山田洋次組や溝口健二組みたいなもので、1人の監督を中心とした縦割りの社会なんです。だから、『モーニング』編集部にいたら、『少年マガジン』編集部に行くということがあまりない。役人みたいな感じですよね。

 小学館は逆に横の風通しがいいので、編集部間の異動が結構頻繁にある。だから、編集者はいろんな漫画家さんと交流できて、経験を積めるということがあります。ところが漫画家側から言うと、ある編集者と仲良くやれるようになったころにパッと違う編集者が来ることになって、また最初から人間関係を作らないといけないという厳しさがあったりします。

吉野 特に弘兼先生はご自分ですべてストーリーを作ることができる方なので、小学館では新人教育を兼ねたような形になります。新入社員を送り込んでおくと、ケアはしてくれるわ、ストーリーの作り方から社会常識まで教えてくれるといったことで(笑)。

弘兼 それは講談社も同じですね(笑)。講談社は編集者が2人いて、副編集長クラスと新人ですね。

古川 ただ、異動は小学館よりは少ないというだけで、僕は講談社でも多い方なのですが、『週刊少年マガジン』『ヤングマガジン』『モーニング』と経験しています。それは編集長とけんかが多かった、飛ばされたというのが多いからなのですが(笑)。

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