ラーメン界をリードしてきた男は何を作ってきたのか? 「博多 一風堂」河原成美物語(前編)あなたの隣のプロフェッショナル(5/6 ページ)

» 2009年08月21日 11時30分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

             

幸せの善循環で「一隅を照らす」存在に

 「僕はラーメンを作っているんじゃなくて、ありがとうを作っているんだと思っています。『あなたが来店してくださったお陰で、明日もまたおいしいラーメンを作ることができます。どうもありがとうございます』という気持ちを伝えるためのメディアとしてラーメンが存在しているんです」

 河原さんは、こうやって1人1人のお客を幸せにしていく。彼らが家や職場に戻ったとき、その幸福感は周囲の人々をも幸福にする。ここに幸せの善循環が生まれると河原さんは言うのだ。

 「幸せの善循環を通じて、世の中の『一隅を照らす』存在になりたいですね」

 河原さんのこうした想いは一風堂などの各店舗できちんと制度化され、具現化している。例えばお店では、タレントなど有名人の色紙や有力メディアの取材記事は張られていない。

 「有名人が来店してくれたり、メディアに取り上げてもらうのは光栄なことですが、だからといって、それをイチイチ声高に宣伝するようなマネはしたくないんです。カッコイイとは思えない」と言い切る。

 ここには感謝を捧げる相手としてのお客は、1人1人皆平等である、という河原さんならではの美学が貫かれている。実際、筆者もラーメン店に限らず、色紙や取材記事をべたべた張った“有名店”に行った経験はたびたびあるが、居心地の悪さを感じることが多い。芸能人やお偉方にはこびを売って、我々のような一般客には鼻もかけないような雰囲気を感じてしまうからだ。

悲しい光景を作らないために

一風堂の味の原点とも言える白丸元味

 またあるメディアで、有名ラーメン店主たちが集まってラーメン談義をしているときだった。たくさんのラーメンを作っていれば「味にムラが出るのは当然」といったことを店主たちが口をそろえて言っているのを聞いて、何とも嫌な気分になったことがある。

 そこのラーメンの評判を聞きつけ、わざわざ遠方から時間とお金をかけて来店し、行列に並んでやっと食べることのできたラーメン。それがたまたま不出来でも、それは誤差の内という開き直った経営姿勢に疑問を感じたからだ。こうしたあり方に対しても、河原さんは明確なスタンスを示し、経営に反映させている。

 「悲しい光景を作ってはいけない、ということを僕は常々言っているんです。残念なことですが、飲食業においては来店してくださったお客様に不快な思いをさせ、心を傷つけているケースが少なくありません。そのネガティブな感情は、彼らの周囲の別の人々へと次々に伝播して、結果としてさっき述べた幸せの善循環とは逆の、不幸の悪循環を生むことになるのは大きな問題だと思っています。

 『2−6−2の法則』というのがあって、来店してくださったお客様の2割はファンになってくれるが、6割は『まあ、こんなものかな』と思い、最後の2割はアンチになる、とされています。でも来店する前からアンチだったお客様なんていないわけですよ。むしろ期待感に胸を膨らませて、とても楽しみにして来てくださっているんです。それなのにアンチになってしまうのは、100%店側に責任がある。プロ意識の欠如が原因なんです。だから我々は、アンチの2割をいかに減らすかに常に注力しないといけない」

 そのための基本中の基本として河原さんが挙げるのが、「QSCの徹底」だ。

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